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Can|本人は「できている」と思っている

Will-Can-Mustは、リクルートが半期の目標管理をするために使っている考え方である。詳しくは以下投稿を読んで欲しい。今回は、Can(できること)について書いておく。

仕事にしろ、バスケにしろ、始めたばかりはできること(Can)は多くない。仕事では、新社会人が何も教えて貰う前から営業をすることは難しい。そのため研修をしたり、先輩が同行してくれたり、ロールプレイングをして腕前を上げて、Canの円を大きくしていく。バスケもゴール下シュートから始まり、レイアップシュートができて、オーバーハンドレイアップができて、フローターシュートができてとどんどん腕前を上げていく。コーチやマネジャーの役割は、選手やメンバーのCanの円を広げていくことに他ならない。しかし、指導した分だけCanが広がれば良いが、そんなに簡単ではないのが実際である。ここがコーチやマネジャーの難しさであり、腕の見せどころである。

認識をすり合わせることから始める

Canを考える上で、コーチやマネジャーが最初に意識しなければならない問題は「自己認識と他者認識のギャップ」である。選手やメンバーが自分ができていないことを認識しているケースは、それをできるように指導すれば良い。しかし、コーチやマネジャーが「できていない」と思っているにも関わらず、本人は「自分はできている」と認識していることがある。Will-Can-MustのCanの指導において、最初に考えなければならないのは、自己認識と他者認識が一致していないケースである。
事実は1つであり、同じ事象が見えているはずだが、認識は同じではないことがあり得ることを、コーチやマネジャーは理解する必要がある。そして、指導する側と指導される側で、このギャプを小さくするための認識のすり合わ合わせをすることが重要である。最終的に認識を一致させることが理想だが、完全一致させることは難しいので、すり合わせるというプロセスで認識するのが適切だと考える。「自己認識と他者認識のギャップ」が生まれているケースを、コーチやマネジャーがどう認識するか?どうやってギャップを小さくするか?を考えてみる。

自分を客観視するのは難しい

例えば、バスケで一番有名なのは、スラムダンクで桜木花道が2万本のシュート練習をするシーンだ。シュートフォームをビデオで撮影してもらい、それを観た時に、自分のフォームの悪さに驚いている。このビデオを観るまでは、自分は綺麗なフォームでシュートができていると思っていたが、ビデオで客観的に観れて始めて気付けた事例だ。ビデオで自分のフォームを観て自己認識をするまでは、どんなにフォームを注意されても、自分は「できている」「やれている」と思い込んでいるので、なかなか直すことができなかっただろう。桜木花道の場合は指導をした後にビデオを観せるのではなく最初に見せてショックを受けさせたことや、2万本のシュートの間もビデオ撮影をしてもらい第三者視点で確認しながらフォームの矯正を繰り返している点が妙であるが、いずれにしろ本人は自分を客観視するのは難しいということである。

仕事において違いを認識するという事例を考えると、先輩の営業同行というのがある。しかし、先輩の営業に同行させてもらって、営業行為を見ても、自分との違いを認識できていないことがある。これはライバル流川のシュートフォームを見ていたにも関わらず、自分との違いを認識できていないのと同じだ。むしろ、先輩に営業同行してもらい、具体的に自分の癖を指摘をしてもらうことの方が有効だ。自分の足りていない点を自分で理解するのは難しい。先輩のフィードバックが桜木花道のビデオの役割を担っている。コーチや上司が本人に伝えることが大切だが、様々な方法を用いて、本人の自己認識と他者認識のギャップを埋めることが重要だと分かるし、やはり、認識のギャップが起こりやすいことが理解できると思う。

イメージ通りに身体を動かすのは難しい

「笑っていいとも」というフジテレビ番組中に、武井壮さんが出演して、運動神経の話をされていた。武井さんは運動神経が良くて様々なスポーツを一流レベルでできることで有名なタレントである。彼は、思い通りに身体を動かせることが重要だと話をしていた。具体例として、野球のバッターがボールを打つ場合、目はボールを見ているので、打つ直前における自分の腕や腰の動きやバットの動きは見ることはできない。つまり、見えていない身体のパーツをイメージ通り動かす必要がある。番組中の具体例として、両手を真横に上げるという動作を、司会のタモリさんにやってもらったところ、実際には、手が少し下がっていた。武井さんは、これを直しながら、「脳が真横だと思っているが真横になっていない」という認識ズレがあるので、それを直すことが重要だと言っていた。
見えていない身体の動きを脳で認識して正確に動かすことが運動神経の良さということである。スポーツを上手くなるには、上手い選手の真似をしろと言われる。真似とは、目から認識した通りに、自分の身体を動かすことである。自己認識と他者認識が一致して初めてできる。この能力が高い人は、バスケ選手であっても、サッカーをしたり、バレーボールをしてもそれなりに正しい動作でプレーできる。生物学的には、運動神経という神経は存在しないらしいが、目から認識した通りに、自分の身体を動かせる人を運動神経が良いと言うとことになる。

シンプルな業務に絞って考える

仕事では、スポーツと違って瞬時に身体を動かさなければならないことは少ないので、見えていない自分の動きの自己認識ということは多くはない。実際には目で見えていることをどう認識するか?という点で課題がある気がする。仕事には、同じことを繰り返し行うシンプルな業務もあれば、状況に応じて考えて、判断していくような複雑な業務もあり、その中間もある。複雑な業務は、なぜうまく行かなかったのか?を整理することすら難しく、マネジャー自身も定義できていな場合が多いので、別で扱うこととし、シンプルな業務に絞って自己認識について考えたい。

「だいたいこんな感じ」で認識している

例えば、誰が見ても分かるミスを何度も繰り返すメンバーがいる。これは、ミスそのものを注意するより、認識のギャップがあると考える必要がある。同じ失敗を繰り返すメンバーに対して注意しても、改善がみられないのは、本人はちゃんと「できているつもり」の可能性が高い。本人は「だいたいこんな感じ」「これぐらいで大丈夫だろう」という認識している可能性が高い。同じ事象が見えているが、認識は異なっているというケースである。
実施することが分かっている仕事であれば、細かい手続きをマニュアル化することが1つの方法である。これはやるべきことを明らかにするという面もあるが、マニュアルという正解と本人の実際との違いを確認しやすくなる。そうすれば、「ここが違うよね!」とピンポイントで指摘でき、本人が認識しやすく、改善しやすいという効果がある。

認識をすり合わせるために考えるべきこと

選手やメンバーのCanを考える時に、コーチやマネジャーは、自己認識と他者認識のギャップという問題を理解する必要がある。本人が「できているつもり」の段階にいるかもしれないと考えるべきである。選手やメンバーを育成するには、まず、このギャップをを揃えるコミュニケーションをすることが重要だと思う。

できる/できないの、最初の段階は、自己認知の問題である。脳の認知機能の問題である。当然、個人によって得意/不得意もある。どういう伝え方だと認識できるのかも違う。認識できた後も、それをできるまでに掛かる時間も人それぞれである。

認知の癖の違い

話は、大きく変わるが、小学校の国語の授業で音読をする学習がある。文章を読むだけならば黙読でも良いが、意図的に音読をさせているらしい。それは、読み飛ばしをする子を見つけるためらしい。もちろん、要約する場合は重要な部分を抜き出すため細部を無視する能力が重要である。複雑なことをざっくり理解するためには重要な能力である。しかし、文章を正確に読む場合は問題となる。ミニバスの子供達に文章を音読させる機会があったのだが、プレーが大雑把な子は文末を正確に読めなかた。
ちなみに、「だいたいこんな感じ」「これぐらいで大丈夫だろう」と認識するタイプは、要点を押さえるのが上手なので、初期の段階では、早くスキルが獲得できる。しかし、精度を高める段階になると、正確に認識できないので、相対的にスキルが不十分になることがある。
逆もあって、正確にやろうとする子は、初期の段階では、頭が整理できなくてなかなか上手くならないのに、慣れていくるとミスの少ないプレーや仕事をするタイプがいる。Canを考える上で、対象の認知・認識の得意不得意を理解することは重要と言える。

発達段階の違い

ミニバスの指導では、小学生が対象である。当然、複雑なことを指導しても理解できない。コーチや他選手が単純なことだと思っていても、本人が自己認識できないことがある。押さえておななければならない知識として「9歳の壁」「10歳の壁」という成長期があるということである。これはスポーツの指導でよく出てくるスキャモン曲線でも説明できる。スポーツでは10歳〜12歳ぐらいをゴールデン・エイジとして定義しており、この期間の前後に脳神経が発達して生物学的には大人と同じレベルに達するため、この時期に運動神経が最も発達するという説である。脳神経の発達の話なので、運動神経に限ったことではない。指導内容の理解度も異なるし、自己認識においても、年齢差が大きくでる。もちろん、身長の伸びと同じように、発達のタイミングは人それぞれで10歳になったから急に自己認識できる訳でもない。
仕事においても、このような差があると思われる。脳医学的や生物学的な変化がある訳ではないが、仕事をする前と、仕事をし始めてからでは身の回りの複雑性が大きく変わる。大学生と会社員では、使っている言葉や考えるべきことが大きく異なる。脳神経は一緒でも、社会的に複雑になり、処理しなければならないことが急増する。これに適応するには個人差があると思われる。もちろん能力差がないとは言えないが、発達のタイミング差があることもコーチやマネジャーは認識しておくべきと考える。

スポーツでも仕事でも、まずやるべきことは、本人が「自分ができてない」ということを認識してもらうことから始まる。そして、本人の自己認知のギャップを埋めるいくことが指導の第一歩である。具体的には、選手やメンバーに「あなたは、できていないよ」という評価をちゃんと伝えることである。これなしでは、選手やメンバーのCanを育てることはできない。これをどう伝えるか?は、次の投稿で書こうと思う。


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