鉈を振るう
鉈を振るいます、夜の街で。誰かに恨みはない。だれかれ構わず殺したいわけじゃない。それに夜の街を歩く彼らほど、わたしは勇敢じゃない。わたしは少しも酒臭くないし、大声ひとつ出せないし、一緒に肩を組むひともいない。勢いでなだれ込む店もない。そもそも勢いなんてどこにもないし、店の灯りは眩しすぎる。見知らぬひとたちの話し声がひとかたまりの喧騒になって、わたしの腰を撃ち、その一片があまりにも明瞭に、わたしの耳を撫でる。ネオンの谷間で酒臭くないわたしには、倒れることも許されない。
鉈を振るいます。
夜の街に。
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