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『世界のグローバルリーダーが使いこなす交渉の秘訣』を読んで 交渉×ディベートに想いを寄せてみた

丸善で平積みされていた『世界のグローバルリーダーが使いこなす交渉の秘訣』。大前研一氏が学長を務めるビジネス・ブレークスルー大学の准教授の竹村さんの著書で、読んでみたところぐっと引き込まれました。(実はある書店では拙書と隣に置かれていたらしく、光栄すぎてぜひこの目で見たかったです…)


0.本の雑感

交渉のイロハを解説し、国ごとの交渉の傾向を一通り見た後に、交渉テクニックを具体的な事例を交えながら解説しており、とても読み応えがあります。グローバルのビジネスパーソンのシーンではもちろん、ある種日常に交渉事は付きもので、ある種交渉を「科学する」ことは有益に違いありません。

そして私が読んでいてビビっと来たのは、序章です。

「実は、交渉術はディベートと深い関係があります」

という青線太字になっているP.16。なかなか「肌に合わない」とされるかもしれない賛成・反対の二項対立ですが、交渉も含めてよくつかわれる基本的な考え方だと指摘されています。竹村さんは、

「長年のグローバル人材育成の経験から、欧米型交渉人材を育てるためには、ディベート、特に英語ディベートを実施することが有効であると感じています。」

とも述べています。そして、ディベート力の低さが、日本人がグローバルな交渉で負け続ける、もしくは弱い立場の原因にもなっている、と切り込んでいます。

このような問いかけを受けて、「1億総ディベート時代」を実現するためにも、私なりにいろいろ考えてみました。実は過去に交渉に関するゼミに所属し、大学対抗交渉コンペティションに出場し、三足の草鞋を実践する中でも日本国内はもちろん、海外企業相手との交渉も行ったことがありました。(竹村さんほどの経験はないのですが)その経験を下敷きに、私から見るとディベートと交渉術は、少なくとも3つの観点で結節点があるように思えました。

1. 自分の主張を「即座」に、「短く」、「分かりやすく伝える」

ディベートでも交渉でもこの3つは重要なキーワードだと思っています。
相手がいる手前、かつメールとは異なるのは「即座に」だと思っています。結局YesなのかNoなのか、新しく出された条件に対してはどう思うのか、よくわからない話があったらそれを突っ込めるのか…等、パターンは山のようにありますが、「即座に」話すことが必要になります。また、「短く」することは、特に意思決定者相手には不可欠でしょう。10分話を聞いてくれる、ということも勿論ありますが基本は最初の1分位が勝負だと思っています。また、その中でも、世界の共通言語たる「ロジック」に基づき齟齬がないように伝えることは、特に第二言語で話す場合には不可欠になると思います。
事実、本の中でも第一章から論理展開の基本として「三角ロジック」が挙げられています。これは、即興型ディベートでも基本の型となる「AREA」(Assertion, Reasoning, Example, Assertion、即ち、主張、理由、具体例、主張)とほぼ同じです。ディベートにしろ、交渉術にしろ、一丁目一番地に位置づけられるのだと思います。
その意味では、実際に交渉×ディベートの練習をするという際には、AREAで話すことを徹底する演習が最初かもしれません。例えば、「弊社としては、今回は〇〇円にしたい、なぜなら~」、「組み方としてはジョイントベンチャーではなく、業務提携がいいと思います、なぜなら~」等、色々なパターンが想像できるかと思います。

2.相手の発言を「鵜呑み」にしない

本の中ではよくつかわれる交渉術がかなり多く挙げられています。例えば、Snow Jobというテクニックは、「自分がやるべき雪かきの仕事を人にやらせるために上手に相手を説得したところからついた呼び名」とのことです。具体的には、多くの情報を与え、その事実や数字で相手を圧倒することも交渉シーンではあるとのことです。本の中では、本当に大事な情報は何なのか見極めることや、相手のペースにのみ込まれないようにすることなどが重要なポイントとして挙げられています。
ディベートでも、色々な形で審査員である第三者を説得するため、論理・感情の両面で訴えかけてきます。この際、賛成/反対の選手の立場としても、相手の話は傾聴しつつも鵜呑みにしないことが重要ですし、意思決定を下す審査員としても「本当にそれは正しいのか?」「本当にそれは重要なのか?」という2つの問いをもとに考えることがポイントとなります。ある種、これは抽象化すると、「鵜呑みにしない」という共通項が交渉学とディベートにあるのではないかということかもしれません。
実際に交渉×ディベートの練習をするには、色々な発言をもとに、この主張がどれくらい効果的なのか?と色々な観点から「徹底解剖」することが良いかもしれません。例えば、「確かにこういうテクニックが使われている」、1.でも挙げた「AREAで分かりやすい」のようなポイントもあれば、一方で「SnowJobのテクニックを使いまくしたてようとしている」、「これに対応するためには根拠をあぶりだすため、このような質問がいいのではないか?」等が考えられます。

3.「ホリゾンタル思考」で相手が言うことを先回りしよう

即興型ディベートに必要な思考法の一つにStudy Hacker様にも取り上げていただいた「ホリゾンタル思考」があります。これは、相手が何を言ってくるのか?という相手起点の思考法となります。ついついどこかで人は自分の視点で物事を考えてしまいがちですが、ディベートでは賛否どちらも「一理ある」テーマばかりが取り上げられます。したがって、第三者から見ると、「どっちもわかる!」ということになりがちなため、相手の主張に先回りしていくことが必要になります。

交渉でもこれは同様になります。相手も、会社を背負ってきているため特定の営業目標、さらにはその背景にある売上目標などもありますし、社内の各種部署や経営層、社外の投資家や資本市場に対して説明することも必要になります。もちろん、ZOPA(Zone of Possible Agreement、交渉が妥結する可能性がある範囲)ない場合は仕方ないですが、できるだけそれを探って妥協したいものです。
実践面ということでは、相手が言っていることはまず「氷山の一角」であったり場合によっては「建前」である可能性からスタートなのかもしれません。その人の主張、反応、表情やボディランゲージなどを見ながら、きっとこの人はこういうことを考えているんだ、また会社からはきっとこういうことを言われているはずだ、それであればこう主張しよう。だがそれではこのように反応されるので、そこにも手当てしてあげて…という形で、相手の意見を考えては自分の立場を考え、と「ぐるぐる」ホリゾンタル思考を行うことが良いでしょう。
交渉×ディベート学では、実際のケーススタディを見ながら、どういう意図、どういう発言が有効か考え抜くことが良いのではないかと思います。

いかがでしたでしょうか。これ以外の結節点もあるかと思いますが、ディベートと交渉の結節点がこのようにありそうなので、一緒に学ぶ相乗効果もありそうです。

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