使いたくなるデザイン
ノートを買う時、
フライパンを買う時、
イヤホンを買う時、
選ぶ基準は何だろう?
色味?形?値段?それとも「使いやすさ」?
どれも大事なことだと思うけど、この中でも
「使いやすさ」っていうのは実は少し厄介だと思ったり。
今日は一人の建築家として、
「使いやすい」と「使いたくなる」について考えてみたい。
使いたくなるデザイン
建築は、使う人のことを考えて、色々デザインされている。
たとえば、
扉の開く方向とか、
階段の一段一段の高さとか、
部屋の大きさとか。
住宅だったらその住宅を使う人は、クライアント本人(とその家族)ってことが多いけど、保育園だったら保育士さんたちも、子どもたちも、その保護者も使う。もしかしたら近くに住む人たちもちょこっと使うかもしれない。
そんな風にいろいろな人たちが使うことを想像しながら建築をデザインしていくわけなんだけど、みんなが求めていることの大半は「使いやすさ」だったりする。
ところでさ、逆に聞きたいんだけど、
「使いやすい」って、何?笑
「使いやすいキッチンにしてください。」
「使いやすい保育室にしてください。」
普通に考えたら、「床から30cmの高さにあるガスコンロ」は使いづらいし、「保育士さんの頭が天井にぶつかっちゃう保育室」ではなかなか保育は難しい。
あきらかに使いづらいものはわかりやすいんだけど、結局使いやすいっていうのはどこまでいっても個人的な感覚でしかなくて、これが本当に厄介。
そんでもって、この「使いやすい」を深堀りしていくと、
実はこういうことなんじゃないかって、思ってるのが、
「使いやすい」は、「知っている」
ってこと。これがほぼ同義なんだってこと。
人はみな、知っているものを使いやすいと認識しているケースがすごく多い。特に目の前に実物として現れていれば、これは使いやすい/使いにくいと実際に使ってみて判断できるんだけど、建築はなかなか実物を「ハイ、どうぞ。使ってみてください。」とできないから、それまでの個人の経験にすごく依存する。
自分の家の(自分が使いやすいように工夫を施した)キッチンか、もしくは、ドラマで見たことのあるきれいなマンションの大きくて使いやすそうなアイランドキッチンが、「使いやすい」キッチンというわけ。
さて、
「使いやすい」は、「知っている」
だったわけだけど、逆に、
「知らない」は、「使いにくい」 なのか?
...違うよね。
ちょっと前まで携帯電話といったらテンキーの付いてる二つ折りのやつだった。それが使いやすい携帯の形だった。
ところがどっこい、
スティーブ・ジョブズっていう黒のハイネックを着たおっさんが、ボタンの全く無い、つるっとした、変な形の"携帯電話"を世に出した。
あの頃、「あんなボタンのないやつ使いづらそうで嫌だ。」と言っていた人は少なくない。
今となっては、「なんだよ、この画面タッチパネルじゃないのかよ。」とか言っている。
「知らない」は、別に「使いづらい」ではないんだ。
「知らない」ことの中にも僕らは「使いやすさ」を見出していける。
だから、大切なのはたとえ「知らない」ものだったとしても、「使いたくなる」ものかどうかだと思う。
僕はいち建築家として、(建築家と名乗るにはまだまだ未熟なのだけど)
「使いやすい」ではなくて「使いたくなる」デザインをめざしたい。
「使いたくなる」デザインは、ある人にとっては使いにくいかもしれない。
すぐには使うことすらできないかもしれない。
でもゆっくりと、時間をかけて、そのモノと向き合っていく中で、じんわりと魅力がわかってきたり、創造性をかきたてられたり、予想外の使い方を発見していく楽しみがあったりする。
そういう建築をつくりたい。
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