見出し画像

執念第一① #毎週ショートショートnote

卒業式に告ってきた早苗を振った。お前のような田舎娘に用はない。泣く早苗をゴミを見る目つきで一瞥し、鼻で笑ってやった。数日後、俺は東京へ発った。東京の大学を首席で卒業し経産省に入庁。そこでも若手の有望審議官として頭角を現した。貧しい生まれの俺の出世への執念の第一として大物政治家の娘と結婚。子供2人に恵まれ幸せの日々。だが汚職に加担した罪で逮捕され、5年の懲役を勤めた。

故郷の駅に降りた。寒風に身が震えた。汚職を持ちかけた相手は義父の政治敵だったので怒りを買い、養子縁組を解消された。両親はとうに亡く迎える者はいない。家へ向かう。途上、休耕のはずの俺の畑に大根が植わっており首に手拭いを巻いた女が水を撒いていた。近づいてよく見ると若干ふっくらしているが早苗だ。

早苗が俺の姿を認め、目尻を下げた。
「畑って放置しておくと荒れるから…勝手にごめんね。気持ち悪いよね」
「いや…ありがとう」
ホースを受け取ろうとして早苗の手に触れた。氷のようだ。手を離せぬまま俺は咽び泣いた。


(431文字)
たらはかに(田原にか)様の企画に参加させていただきました。