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謎の金 #ショートショート

 観光案内所に勤務していました。案内所の建物を含む敷地が駐車場になっており、車を降りた観光客はすぐ傍の寺に参拝します。一日の勤務終わりに駐車場代を集計し、金は専用袋に入れ五分先の銀行の夜間金庫に納めます。集計作業は五人の事務員がローテーションを組んで行いましたが、台数と金額が合わないことはしょちゅうでした。

 駐車場を管理する従業員は高齢者ばかりで、暑い日も寒い日も走り回って誘導される訳です。金額が合わなくても私達は責められません。このような場合に備えて金庫に特別な箱を用意しておりました。額が少ない場合はこの箱から拝借し多い場合は投入する。もちろん収支表は付けておく。そうやって帳尻を合わせていたのです。

 私は集計作業が嫌で嫌で仕方がありませんでした。五人のうち年少の私は何につけてもどん臭く、観光客への説明も下手で先輩に叱られてばかりいました。額が合わなくて何度も計算し直しているとジトッと刺すような目つきで見られ、まるで監視されているようでした。
 
 しかし自分だけ作業から外して欲しいとは言えません。金が多ければ箱に入れるだけでいいですが、少ない場合は私が失くしたかのような目で見られます。ストレスで追い詰められた私は額が少ない場合、先輩の目を盗んでマイポケットから金を補填するようになりました。

 すると奇妙な現象が起こるのです。例えば五百円を補充した数日後に、電話台に五百円玉が一枚置かれているのです。誰も知らない間に、いつの間にか。電話台の場合もあれば、休みの事務員の机の上だったり、勤務ボードのペン置きの上だったり。いずれの場合も補充した金額とぴったり同じなのです。

 事務所は私達五人の誰かが必ずいるので、何者かがこっそり金を置けばわかります。それに私以外の事務員の誰かがこんな行為をしているとしても、補充した額を知っているのは私だけなのです。

 気持ち悪いね、何なんだろうね、と先輩達は言いながら一応箱に投入します。売上金を盗むのは犯罪ですが、足りない分を自分の金で補充するのもまた法を逸脱した行為と言えるかもしれません。

 私は毎日恐怖で気が気ではなく、とうとう補充するのを止め、足りない時は勇気を絞り正直に言うようにしました。先輩達の集計だって足りない時が結構あるのです。何も怖がらなくてもよかったのです。すると謎の金の出現は止みました。私は心底ほっとしました。



創作です。それにここまでアホではない、はず笑。
以下のコンテストに出しましたが今月は2作とも1次も通過せず~
そのうちの1作です。

最恐賞はやっぱりさすが、上手いし何ともいえない読後感がありますね。
noteの皆さんはこういうの好きですよね。このコンテスト、応募規定が結構厳しいのでもし応募される場合はきちんと読んでから応募しましょう(^-^)/