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緑の逃走線たち

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種を植えず蒔きもせず、点を作らず線を突き刺す。 (ノーディレクションな旅の後悔や傷をポスト構造主義的に肯定する試みです。)
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記事一覧

坂の多いまち 其の二

 新しい生活に慣れ始め、無くしたものが残した穴を時間の垢が埋め合わせた頃、私はロッククラ…

Takagi Akira
11か月前

坂の多いまち 其の一

 坂の多いまちだった。  中央の駅から長い坂を登って街を抜けると、公園の中を突っ切る長い…

Takagi Akira
11か月前
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再領土化

 これまで初めての海外渡航から異国での農業生活及び共同体の崩壊について綴ってきた。しかし…

Takagi Akira
1年前
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 私がこのファームに来る数ヶ月前、大きなハリケーンがこの地域を襲ったらしい。その影響で苗…

Takagi Akira
1年前
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シットパンツ

 可奈は上半裸の聡を見つけた。彼の左脇にはサッカーボールが抱えられ、快活な笑顔で誰かと話…

Takagi Akira
1年前
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擬態 其の二

 私は静江、滋賀県出身の19歳。私はバックパーカに憧れていた。それで高校を卒業してすぐにニ…

Takagi Akira
1年前
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もしあの時

「麻衣子、週末ブリスベン行かない?」 「いいよ、八重子さんも行きたがってたよ」  健が麻衣子に尋ねると、彼女はそう答えた。健にはベンチに座ってタバコを吸う麻衣子の姿が猫背のテディベアのように見えた。 「そうなんだよ、行きたがってたけど、最近疲れていそうで誘っていいか迷ってるんだ。日本の仕事も忙しそうだし」 「健ちゃんが誘えば絶対行くと思うよ」 「そうかな、じゃあ行くことになっても、八重子さんには無理させないようにしよう」 「オーケイ」  麻衣子は健に週末のお出かけに誘われた

集る

 ある日、私は他のチームの人々が集まるコンテナーの前に居座っていた。彼らのチームには過去…

Takagi Akira
1年前
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官能

 イチゴ農家では収穫時にトロリーと呼ばれる台車が使われる。座面と荷台と屋根(多くは布が朽…

Takagi Akira
1年前

小休止

 畑での仕事を終えると、私はチームメイトを乗せて車を走らせる。基本的には同じファームハウ…

Takagi Akira
1年前
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所有

 早朝五時。あたりはまだ暗く、冷たい空気が上空から地面までぴたりと満たし、土を圧し固めた…

Takagi Akira
1年前
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未熟

 次に私が思い出すことは、「私はこの車には乗らない事件」だ。  農園での仕事に慣れた頃、…

Takagi Akira
1年前
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共同厨房

 私自身が属する第二の群れが形成されてから、まず私を悩ませたのは、キッチン事情であった。…

Takagi Akira
1年前

ペリカンの知らせ

 そこには四つの群れがあった。最初に訪れた三つの人種から成る群れ。次に訪れた多国籍の群れ。それらを監督するために設立された同人種だけの群れ。最後に破壊を齎した、やはり同人種の群れ。  私は二つ目の群れに属していた。ペリカンが裏の池に舞い降りた頃、三つ目の群れの存在に気がついた。  私がこの池のほとりに着いた時、すでにそこには一つ目の群れが存在していた。一つ目の群れにはイタリア人、韓国人、日本人が在籍していた。コントラクターと呼ばれる群れの統括者は韓国人の女性であった。その時期