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雑感63:パイドン――魂について

死後、魂はどうなるのか? 肉体から切り離され、それ自身存在するのか? 永遠に不滅なのか? ソクラテス最期の日、弟子たちと獄中で対話する、プラトン中期の代表作。

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ソクラテスの民衆裁判を描く『ソクラテスの弁明』
収監後のソクラテスをクリトンが救済しようとする『クリトン』
そして、ソクラテス最期の日に「魂とは何か?」について対話をする『パイドン』

中学・高校の倫理の授業、今も倫理の授業があるのか分かりませんが、で登場することが多いのは手前の二つですが、三つ目の『パイドン』も含めて一連のソクラテスの物語が完結します。

元々は光文社新訳の『ソクラテスの弁明』が読みたくて、何となく『パイドン』も一緒に買ってしまったわけだが非常に面白かった。人の出会いと同じで、読書はこの偶然性が面白い。

さて、本編は正直なところ私にはスッと入ってこないところも多く、難解な文章が多かったです。ただ、訳者の方が付けて下さった解説が非常に丁寧で、「魂の不死」という科学が発展した現代において一見無意味に見えるこのテーマを、我々が考える意義というか道筋を示してくれる。

『ソクラテスの弁明』で有名な「不知の自覚」という立場を『パイドン』でもソクラテスは徹底していて、ソクラテスはやはり、死とは何なのか、魂とは何であるのかを知らないという立場は貫く。しかし、この「死」について仲間との議論を通じ、思考と判断を繰り返すことそのものがまさに哲学であり、死の練習であり、2400年あまり経った現代の私たちの心に強く響くのだと思う。・・・と思う、というか訳者の方がそのようなことを書かれていた。

『パイドン』を通じ、ソクラテスの「死」や「魂の不滅」に対する考えを理解することで、『ソクラテスの弁明』などで語られる「善く生きる」ことへの理解が一層深まり、ソクラテスという人物、一人の哲学者への理解も深まった気がした。やはり3つの作品はセットなのだと思う。

そしてラストのソクラテスの最期のシーンの表現・演出は圧巻であった。

冬休みはこういう本をゆったり読めていいですね。

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