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それでも、仕事をしない人

【中川さんとの思い出、その2】

先日noteに
古い友人とのエピソードを綴ってみた

彼女の名前は中川さん
自分にないものをたくさん教えてくれた人

いったん中川さんを思い出すと
次から次へと
エピソードがよみがえってくる

まるで、長芋みたいな人だな
と思ってしまったのだった

中川さんとの思い出、その1


私?週2で、バイトしてるよ

中川さんは
あったり前じゃない
と言わんばかりに返事をした

何があったり前なのかと言うと彼女は

働くことだけに
意識を向けない人生にしてる

ということらしいのだ

相変わらず

不可解だ

ミステリアスでこの人は面白い
心底、思った


あの講座で中川さんと知り合ってから
彼女とSNSでつながった途端

彼女は俺の投稿すべてにコメントを入れた

多い時は、彼女とのコメントのやり取りが
100を超えることがあり

これは経験上、異常事態だった

このSNSでは
コメントが多すぎる投稿は
みんなから嫌われる

コメントが入るたびに
投稿がニュースフィードの1番上に
繰り上がってくるから

何度ひらいても
俺の投稿を見ることになるので

しつこい!
いい加減にしろ山ちゃん
となるわけだ

ことに1人の人とやり取りをするなら
直でやってくれ、ってなもんで

そのくらい

中川さんとは
急速に距離を縮めていったのである


翌年の夏
みんなでバーベキューをすることになって
久しぶりに中川さんに声をかけたら
2つ返事で参加してくれた

バーベキューは
車で1時間ほどのところにある
専用のサイトがある場所で

酒を飲む俺は
飲まない中川さんの車に乗せてもらえた

その車内で

山ちゃんはさ、いいよね
自分家があって
お金に困らず暮らせているから

と、中川さんが言った

突然、なんの話?
俺は面食らう

え?
贅沢はぜんぜん出来ないし
なぜこの暮らしがいいと思うのか
正直、分からないな

と、事実を返答した

十分だよ
私なんて、この冬
ガスと電気止められたからね

俺は中川さんが
いきなり衝撃的なことを言ったので
返す言葉を失ってしまった

なぜかと言うと俺は
中川さんがお金持ちの奥様だと
勝手に思っていたからだ

週2回のバイトは奥様の暇つぶし
くらいに思っていた

この衝撃に拍車をかけたのは
北海道の冬にガスを止められたら
マンション暮らしは暖房がなくなる
どれだけ過酷な話かは容易に想像ができた


旦那から、仕送り止められてるの
旦那今、大阪でエンジニアしてるんだけど
別れてほしいって言ったら
お金、よこさなくなっちゃって
娘が働いてくれたから
光熱費は出せるようになったんだけどさ

しんどいことをサラッと話す

いや、俺なら見栄が先立って
よそ様にそんな話できないから
この人はますます不可解だ、と思ったのだ

そしてその道中
彼女は身の回りのことを
この調子で赤裸々に話し続けた

大抵の話の本質は
お金がない、ということと
歴代の旦那は、形は変われどDVだった
ということだった

ただ、話を聞いていて
何となく気づいたことがある

彼女の一方的な話なのではないか
という点だ

結婚してから、旦那は大阪に単身赴任して
中川さんの生活費と
1人目の旦那の子である彼女の娘の学費を
少なくとも5年以上出してくれていた

きっとそこまでしたなら
旦那にだって言い分があるはずだろう

とは思ったが
もちろん余計なことは口にしない
それは他人の家のことだからだ


どんなに話を聞き続けても
別のルートから
お金が入るわけでもないようなので

話のわずかばかりの隙間をねらって

バイトを増やしてもらったらどうなんですか?

と、俺は聞いてみた

というのも
食べきれないのに
天丼セットとカツ丼セットを注文したり
果物はシャインマスカットしか買わない
とか

そうしたいのならお金が必要で
自分でなんとかするしかない
と俺なら思うからだ

そうしたら

働くことだけに
意識を向けない人生にしてる

と答えが返ってきた

あくまでも

それでも、私は働かない
ということか

この言葉を飲み込むのに
しばし時間が必要だったが

なるほど
それもアリですね

と、俺は答えた

で実際のところ

アリなのだ
彼女は今も元気に暮らしている
あれから直接会うことはなくなったが

あの調子なので
おそらくスタンスは変えてないだろう

自分にないことばかりで

オマエに真似できるか?
と言われているような気持ちになる

たしかに、俺には到底できない
こりゃ完敗です、というしかない

がしかし、その後
彼女のおかげで

少しばかり仕事に力を
抜けるようになっていた

とても、いい意味で
リラックスして働けるようになったのだ

変な話だが
ショック療法に似ていた気がする

あの日、彼女を通して
俺の中に

仕事は一生懸命しなければならない

みたいな思いがあることに気づいて
驚いてしまった


この体験がなければ
分からぬままだっただろう

あれから

仕事中でも暇さえあれば
腰かけるようになった

彼女の存在は、とても偉大だ

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