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天丼セットとカツ丼セット

30代の終わり頃
人前に立つことが多くなり
話し方や内容の組み立て方
パワーポイントの使い方
そして、表現の仕方、などなど

とにかく色んなこと習ってた

それらの講座では
一緒のクラスになった人と
飯を食いに行くのが定番で

この世には
聞いたこともない職業があって
聞いたことはあっても
実在するんだ、と感動する職業の人もいて

色んな人の話を聞けて
とても楽しかったのだ

そばの味の違いが、実は分からない


そんな中

専業主婦の中川さんと知り合ったのだった

その講座では、ディスカッションが多く
必ず買っちゃうもの
というお題で話がすすんでいた

その中で、中川さんは
当時有名になりたてだった
シャインマスカットを
どうしても買ってしまう
と言っていたのが印象的で

ツンデレのお金持ちのおばさん
という先入観があったのだが
マンツーマンで話すと
とても気さくで話しやすかった

何よりも中川さん
やることがはちゃめちゃで面白い
他人事とはいえ
どうしてそういう行動をとってしまうのか
知りたくなってしまうのだった

私さ、バツ3なの

この時点で、イカしていた
初対面の男に
私バツ3だ、なんて言うだろうか

肝が座ってんなぁ、と
初回から1本とられた気分だった

面白い話だらけの彼女だったが
その中でもその日1番驚いたのは

昼休み
受講生みんなで、そば屋に入った時

中川さんが席につくなり
天丼セットとカツ丼セットお願い

と、言ったのだった


まさかこのおばさん、大食いの人?

そば屋でも、1番ボリュームのある
天丼セットとカツ丼セット
同時に頼むなんて

ヤバくない?

俺は相当変な顔してたんだろう
中川さんは俺に向かって

ああああ、これいつもなの

と、もう何度も言い訳すんのめんどくせー
みたいな感じで話してきた

って、やっぱ大食いか

(笑)

我が家は、にしんそばが定番


ランチ中は
俺も、中川さんも
みんなにまじって今日の内容を
あーでもないこーでもない話をしていた

がしかし
そろそろ時間だというのに中川さん

天丼セットとカツ丼セット
それぞれ半分ずつしか食べてない

そんなに広くもないテーブルの上を
お膳を2つ分占領し
それぞれきっちり半分ずつ

異様としか思えない
その状況に、さすがにみんなも

え?

え、え?

と、なんて言葉にすればいいのか
戸惑っていると

私ね
自分を甘やかして生きる練習をしてるの

と、中川さん自ら
これまためんどくせーみたいな風に
言ってきたのだった

自分を甘やかすのと
食事をムダにするのは
別の話なんじゃないの?

と、俺は反射的に思ったのだが

みんなも、あ、あああ、そうなのねー
と若干ひき気味で話していたので

誰もが、こりゃ分からんわ、と
満場一致で

不可解

として終了したのだろう

そばつゆも、できるだけつけたい派


この答えは未だに理解できぬままであるが
中川さんは
まだまだエピソードがある人なので
またいつか書きたいと思っている

昭和の人間って
そんなことで泣くな
もっと頑張れ、根性みせろ、と
育ってきちゃったから

力が抜けなくてしんどい人、いるかもだ

できませんでした、と言える勇気があれば
鬱にならなくてすんだのに
と嘆いていた人を何人か知ってるが

こういう細かいところから
自分を甘やかす練習をするのも
ありなのか?と
驚かされた話だった

天丼セットとカツ丼セット
半分ずつ残す

そんなもったいないこと
俺にはできない

けれど

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