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歌は趣味になり得ない。

自分の欲望に向き合おうとすればするほど、それを抑えようとする何かが私の中にある。日に日に大きくなる欲望のせいでコントロールできなくなりつつある感情は、どこにも向かう先がない。

歌いたい。

ただそれだけのことなのに、なぜこうも難しいのだろう。

いや本当はこれっぽっちも難しくなんかない。自分が難しくしているだけなのだ。何かと理由をつけて、何年もかけて忘れようとしてきた。
そして、そのツケが今になってまわってきた。

歌うことは、私にとって「趣味」ではない。そんな明るく軽い言葉では説明がつかない。もっと何か普遍的で必要不可欠なもの。呼吸が生きていくのに必要なように。

わたしは、かなり感情の起伏が激しい人間であると思う。一方で、その感情を素直に表すのが苦手である。人とコミュニケーションをとったり、自分の気持ちを言葉で表現するのに恐怖を感じる。
誰とも分かち合えないモヤモヤした気持ちを、少しずつ少しずつ心の中に溜め込んでいく。そしてそれがいっぱいになったとき、誰にも止められないほど爆発する。こうやって何度潰れてきただろう。どれだけ人に迷惑をかけ、傷つけただろう。

そんな人間が唯一見つけた自己表現の手段。それが音楽だった。生きるために必要だった。

小さい頃、親に怒鳴られ苦しんだときにいつも向かったピアノ。何を弾いて何を歌ったのかも思い出せない。どこかでつかえて出てこない言葉たちは、音楽を通してなら素直に出てきてくれた。

そして、ミュージカルに出会った。

心の底から湧き上がる感情を、止めることなく溢れ出させるその生々しさ。

初めて息をすることを覚えた。登場人物の言葉を借りて、自分の感情とともにはき出す。「わたしは生きている」と心が叫んだ。

一方で、プロのミュージカルを生で見たことはほとんどない。
初めてみた公演は、ロンドン、ウェストエンドでの「Les Misérables」。大学1年生の春休みひとり旅をしたときのことだ。
笑い話としていつも話すのが、最初の曲の2音目から涙が止まらなくなったこと。今でも忘れない、最初の音を聴いたときに文字通り心が震え、その後数時間、公演終了後も溢れる涙を抑えることができなかった。
その涙は、感動のみからくるものではなかった。この場において自分が歌うことを許されていないもどかしさ。息をすることができない苦しさ。
その後は、苦痛と感動を同時に味わう価値があると思うときに行こうと思っている。

いま、わたしには何もない。心の中で何かが日に日に死んでいく。声が出ない。喉を掴まれ少しずつ意識を失っていくような感覚。

それでも生きるために息をしようと足掻いている。

わたしには、歌が必要だ。

#歌 #ミュージカル #音楽


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