見出し画像

地域での協業を推進するブランディング

前回から「地域におけるブランドマネジメント」について書かしていただいています。今回では、地域ブランディングで最も難しい、どのように多様なステークホルダーにおける協業を推進していけるかについて、自分なりの考えを書かせていただきます。



地域での協業を推進するブランディング

地域におけるブランドマネジメントのおさらい

地域においては「地域の資産・協業・市場」の3つの領域のブランディングをつなぐブランドマネジメントを行っていきます。地域の資産を基盤に「地域価値の研鑽」を行う地域ブランディングを起点に、連携ブランディングにて地域の活動家や事業者間の「協業文化の醸成」に注力し、体験ブランディングにて地域の市場における「顧客価値の創出」を推進することを説明しました。

Local Branding!(作成:AKIND 岩野)

AKINDでは、地域の肯定から始めることにこだわり、まずは地域の風土・文化・産業という領域にて、地域の資産の紐解きを行いながら、地域ブランディングとしての指針を策定するアプローチをとっています。本日、ご説明する「連携ブランディング」を進める上でも、この地域の資産を明確にして、地域の強みを基盤にプロジェクトの指針としていくことはとても重要だと考えています。


企業と地域では前提が大きく違う点

地域ブランディングの取り組みでは、もちろん国の補助金などを活用していくことはありますが、資金は潤沢ではありません。また、行政、地域事業者、地域の活動家など多様なステークホルダーの関わりがないと実行できないことがほとんどです。この予算が限られる中、思惑や立場の違うステークホルダーがどれだけスムーズに協業できるかどうかが、地域ブランディングの鍵にあると思います。

一つの企業であれば、雇う側と雇われる側という前提条件があるため、トップが指針を示し、現場がその指針に沿って、活動を行うという構造が生み出しやすいのですが、地域の場合はそうはいきません。お互いに利害関係がない、または複雑な利害関係にある人たちが、協力し合って、さらに普段の事業とは違う取り組みに時間とコストを割いて、取り組み続ける必要があります。

地域におけるブランディングを進めるには、さまざまな業態の事業者、行政、地域で活動を行なっている組織や個人、有識者、地域住民など、多種多様な背景や思惑を持った人との協業が必須となります。正直、これらの人々は協力し合わなくても、通常の営みは行えます。ただし、多種多様なステークホルダーの善意に基づき、自発的な関わりと、互恵的な協業がないと、地域が抱える課題を解決したり、地域経済を活性化するためには、一つの組織や個人だけでは実現することができません。

そこで大切なのは、一人ひとりの意思や思いです。関わるステークホルダーが主たる事業や活動の中で、実現したいと思っていることの共通項を見出し、地域ブランディングの取り組みに参加する意義を実感できるようにすることが大切です。そして、その共通したビジョン(世界観)や共感を生むバリューズ(価値観)を基盤に、協業しやすい仕組みや座組みをデザインしていくことが「連携ブランディング」となります。


地域ブランディングの成功の鍵は協業

協業しやすい仕組みや座組みのデザインに関しては、ブランディングの手法である「ブランド・コラボレーション」の考え方が活用できます。ブランドコラボレーションとは、お互いのブランド資産を理解した上で、本来ブランドとして達成したいが個々では実現が難しい取り組みを、コラボレーションを通じて推進し、新しい価値を共創していく取り組みです。

地域ブランディングに関わる理由を、ただの支援という枠組みでなく、コラボレーションを通じて、各社や各活動の新しい取り組みを推進するためのきっかけとして捉えてもらい、一緒に新しい価値を共創していくというスタンスを関わるステークホルダー同士で共有し、協業文化を醸成することが重要だと考えています。この領域に時間やコストをかけないため、途中で頓挫してしまう地域ブランディングの事例はたくさんあるのではないでしょうか?

この協業ブランディングというアプローチは、企業向けの社内ブランディングにおけるチームアップの手法なども有効ですが、ソーシャルイノベーションの領域で注目されている、コレクティブ・インパクトのような高度なモデルを用いていく必要があります。地域ブランディングの取り組みの難しさは、このような新しいアプローチが必要であり、そのような手法がまだまだ発展途上であるという背景にあると感じています。


コレクティブ・インパクトを参考にした協業ブランディング

コレクティブ・インパクトとは、スタンフォード大学が発行する専門誌 Stanford Social Innovation Re-viewで、John KaniaとMark Kramerの共著による論文が発表された考え方です。具体的には、「異なるセクターから集まった重要なプレーヤーたちのグループが、特定の社会課題の解決のため、共通のアジェンダに対して行うコミットメント」と定義されています。


John Kania, Mark Kramer, 2011, Stanford Social Innovation Review article Collective Impact

最上段の「共通のアジェンダ」では、関係する組織が持つそれぞれの指針(会社のパーパスや地域で取り組みたい活動)を把握した上で、地域で協業する共通テーマをどのように設定するかが重要です。そのためには各組織の決定権を持つ人たちが対話を重ねながら、お互いの思惑と意図のすり合わせを丁寧に行う必要があります。

上から3段目の「相互に強化し合う取り組み」では、地域では大きな取り組みをすると進行が鈍ることが多いため、数社でグループを形成し、グループ毎に小さな取り組みにおける成功体験を回してくことで、活動を進め、広げていくことが重要です。そして、その取り組みに参画している組織同士が学び合い、お互いにメリットを享受できるような枠組みの設計を行う必要があります。

上から2段目に戻りますが「共有された評価・測定システム」では、地域ブランディングでの取り組みの成果を各組織が理解し、各組織で役立つための指標の設定が重要となります。一企業だと売上や利益など絶対的な指標が存在しますが、地域での協業ではテーマによって成果も多種多様です。また、「相互に強化し合う取り組み」に対する検証を行うために、共有された評価が必要となります。通常は地域内で共有するデータ基盤が整備されていないケースが多いため、どのようにその指標を収集し、測定するかについても検討しておくことが重要です。

「継続的なコミュニケーション」では、協業している組織間の情報共有はもちろんのこと、実際に取り組みを担当している人々同士のコミュニケーションも重要となります。その理由は、地域の協業において、実務を担当している人はそれぞれが別の組織に所属しているケースが多いため、組織を超えてお互いのことを信頼性合える関係づくりが重要となります。さらには、地域ブランディングでは、実際に取り組んでいる組織以外にも根回しをとっておかないと、将来的にどこかで問題が生じる可能性もあり、コミュニケショーンはとても重要な機能となります。

最後に「取り組みを支える組織」は最も重要だと考えています。企業だとブランド・マネジメントチームということになるのだと思いますが、組織同士の協業を促進し、取り組みを推進する上で不足している機能を保管してくれる縁の下の力持ちのような組織がいるかどうかで、地域ブランディングが成功するかどうかが決まると言っても過言ではありません。通常だと形だけの組織が事務局の機能を持つことが多いですが、サポート組織には高度なマネジメントスキルやファシリテーションスキルが求められます。


おわりに

本日紹介したアプローチは、エリアマネジメントなどの取り組みにおいても有効だと考えています。そして、複数の組織が方向性や大切にすべきなことを共有しやすくするためには「ブランド」はとても役立ちます。今後は、事例も交えて詳しく説明する機会をつくっていきたいと思います。


株式会社AKIND 代表取締役 岩野 翼

<この記事を書いた人>
岩野 翼 | Tasuku Iwano
株式会社AKIND 代表取締役 CEO / 神戸在住 / 二児の父
英国のBrunel University ブランディング&デザイン戦略修士課程終了。2014年に神戸にて株式会社AKINDを創業。ブランディングという手法は、より良い社会を創り出すために貢献できるのではないかと信じて、神戸から新しい試みに挑戦しています。