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連載「カナルタ コトハジメ」#11 未知の大陸、南米に旅立つ前に僕がかましたハッタリのこと

*2021年10月2日(土)より全国のミニシアターで劇場公開されるドキュメンタリー映画『カナルタ 螺旋状の夢』。僕自身がひとりでアマゾン熱帯雨林に飛び込み、かつて「首狩り族」として恐れられていたシュアール族と呼ばれる人々の村に1年間住み込んで撮った映画です。この連載では、『カナルタ』をより深く味わってもらえるように、自分の言葉でこの映画にまつわる様々なエピソードや製作の裏側にあるアイデアなどを綴っていきます*

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前回記事:https://note.com/akimiota/n/n914995c82c4f

2016年8月下旬、映画の撮影とマンチェスター大学映像人類学部博士課程の研究のために、僕はエクアドル共和国の首都キトへ向けて単身飛び立った。エクアドルはおろか、南米大陸ですら僕にとっては全くの未知の世界だった。先住民言語については少しだけかじったケチュア語以外全くの無知で、スペイン語の能力ですらお世辞にも高い状態とは言えず、その時点では「実際にアマゾンにどうやって行けばいいのか」のアテすらもなかった。そんな状況でよく行けたものだな、そもそもマンチェスター大学はよくそんな状態で渡航を許可したな、と思われるかもしれない。実際、研究のためのフィールドワーク、特に博士課程ともなると、事前に綿密に計画され、組み立てられた「実現可能な」(英語ではよくfeasabilityと言う)ロードマップを提示することが基本的には求められるし、現地調査を行う場合は「どこで、誰と、どのように」行うのかを明確にしなければならない場合がほとんどだ。

少しだけ告白すると、僕は大学と指導教授に対してハッタリをかました。「僕はすでにスペイン語が話せる」と指導教授には言っていたし、「アマゾンに住む人たちを紹介してくれる友人がいる」と言っていた。それは、1から100で「嘘レベル」を測った場合、渡航前の時点では90くらいで「嘘」だった(てへ)。僕の周りの同級生たちは、多少のハッタリは付き物だとしても真実レベルが少なくとも70くらいの状態で調査先に向かったように思う。なぜここでわざわざハッタリの話をするかというと、『カナルタ 螺旋状の夢』が生まれた大前提として、僕がイギリスの大学を通してアマゾンで研究・撮影することを許可される必要があったからだ。そして、僕はそれが「許可された」という事実自体が、世界的にはそもそも普通ではないことを知っている。普通ではないことが起きてしまったからこそこの映画が生まれ、本作にはある種の他にはない個性が宿っている、とも考えている。ではなぜ僕はこんなハッタリをかまして、無謀とも言える状態で南米に向かったのか。

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