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HPVワクチン反対派の論に対する私見

まず、HPV(ヒトパピローマウイルス)やHPVワクチンについての情報は、信頼できるソースに当たりましょう。もちろん、医療情報全般にも言えると思います。

日本産科婦人科学会/子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために

http://www.jsog.or.jp/modules/jsogpolicy/index.php?content_id=4

↓リンク切れの為、URL修正


厚生労働省
/HPVワクチンに関するQ&A

(追記)国立がん研究センター/子宮頸がんとその他のヒトパピローマウイルス(HPV) 関連がんの予防ファクトシート 2023

HPVワクチン反対派の論の前に、まず筆者の結論を述べます。


【結論】

1.HPVワクチンの安全性と有効性は、様々な調査や研究により確認されている。副反応については、ワクチン反対派の主張が妥当ではない。

2.HPVワクチンには、ターゲットのHPV感染を予防する効果がある。ワクチン接種により、ウイルス感染に由来するがんなどの予防が確実視されている。

3.子宮頸がん予防には、適切な時期にHPVワクチンを接種した上で、20歳を過ぎたら検診を受けることが有効である。

以下、なぜこの結論に至ったか、反対派の論を交えて説明します。

【反対派の論】

HPVワクチンの反対論として、山本太郎氏の意見がまとまっていますので、動画を紹介します。(1時間18分50秒頃~)

筆者なりに要約すると、HPVワクチン接種に消極的であるべき理由として、以下の観点が挙げられます。ただし、動画内で「自分はアップデートできていない」と断っている通り、これが全て山本太郎氏の意見である、というわけではありません。

・HPVワクチンは、他の代表的なワクチンと比べて、接種あたりの副反応件数が多い

・HPVワクチンには、子宮頸がんそのものを予防する効果は証明されていない

・HPVワクチンでなくとも、検診により子宮頸がんを防ぐことができる

・HPVワクチンの有効性が低い

また、公式HPにも、過去にHPVワクチンに関する意見を載せていました。(現在は削除済み)

子宮頸がん予防ワクチン、必要なし。

深刻な副反応が続出している子宮頸がん予防ワクチンは、即刻接種中止すべきです。 10万人に7人にしか効果の“可能性”がなく、そもそもウイルス感染しても90%は自然排出、 軽度異形成の90%は自然治癒。定期的な併用検査で子宮頸がんは予防できます。政府が今行うべきは、ワクチン接種中止と約338万人の接種を受けた少女たち全員の追跡調査と被害者の全面救済です。

山本太郎となかまたち とは

HPVワクチンの有効性を疑う観点、子宮頸がんを検診で防ぐことができるとする観点は、共通していると言えるでしょう。

さて、箇条書きにした上記4点について私見を述べます。

【HPVワクチンは、他の代表的なワクチンと比べて、接種あたりの副反応件数が多い】→比較対象が不適切

この事実の真偽に関わらず、この観点から「HPVワクチンが危険かどうか」は判断できないと思います。なぜならば、比較する条件が揃っていないからです。

例えば、ポリオ、Hibワクチン、4種混合、BCGであれば、通常1歳未満から接種しはじめて、1歳から2歳で終わるスケジュールになっています。

日本小児科学会/日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール(保護者用)2019.4.1

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日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール(保護者用)

それに対して、HPVワクチンは最速で9歳から、通常12~16歳で接種するスケジュールになっています。

こどもとおとなのワクチンサイト/ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン

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ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンについて

年齢という条件が揃っていない為、ワクチン接種あたりの副反応疑い件数が多くなっていたとしても、ワクチンの危険性以外の要素が入る可能性があることになります。

では、どのようにしてワクチンの安全性・危険性を調べるのか。

それは、ワクチンを接種していないグループと接種したグループで、副反応と疑われる症状の出方を比較して調べます。

名古屋市が2015年に調査したデータがあります。

名古屋市/子宮頸がん予防接種調査の結果を報告します

ワクチン接種したグループと接種していないグループに分けて、24種類の「多様な症状」の発生率を比較します。

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身体の症状と子宮頸がんワクチン接種の有無のクロス集計

この数字を計算したものがこちら。
Excelデータ↓
https://drive.google.com/open?id=1ng9aPeuqHmnS8Q9WTciL6JkWNt1ahYz0

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オッズ比が概ね1ということは、ワクチン接種の有無に関わらず、同じぐらいの割合でこれらの症状が出ていることになります。

日本産科婦人科学会の見解も同様です。

3)HPVワクチンの安全性はどう評価されているのですか?

(略)名古屋市で行われたアンケート調査では、24種類の「多様な症状」の頻度がHPVワクチンを接種した女子と接種しなかった女子で有意な差がなかったことが示されました。HPVワクチン接種と24症状の因果関係は証明されなかったということになります。

日本産科婦人科学会/子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために

また、上記データを元にした、いわゆる「名古屋スタディ」と呼ばれる論文があります。(英語)

No association between HPV vaccine and reported post-vaccination symptoms in Japanese young women: Results of the Nagoya study

タイトルの通り、「HPVワクチンとワクチン接種後の症状との間に関連性はない」と結論付けられています。

【HPVワクチンには、子宮頸がんそのものを予防する効果は証明されていない】→HPV感染予防が目的

HPVワクチンは、ターゲットの型のHPVの感染を防ぐ効果があると確認されています。発がん性のHPVの継続感染から、前がん病変、がん、という経過をたどるため、ウイルス感染を予防すればHPV感染に由来するがんなどを防ぐことができると期待されています。(子宮頸がん以外に、中咽頭がん、肛門がんなど。4価以上のHPVワクチンであれば、がんの他に、尖圭コンジローマなどを予防できると期待されている)

したがって、そもそも「子宮頸がんそのものを予防する効果」を謳っているわけではありません。子宮頸がんの原因となるHPV感染を予防することにより、結果的に子宮頸がんを予防できるという意味です。

HPVワクチンの有効性については、後述します。

【HPVワクチンでなくとも、検診により子宮頸がんを防ぐことができる】→ワクチン接種も検診も両方有効

確かに、適切なタイミングで子宮頸がん検診を受けることも子宮頸がん予防に寄与します。しかし、これには一次予防二次予防という概念があり、一次予防にあたるのがHPVワクチン接種で、二次予防にあたるのが子宮頸がん検診になります。
※三次予防もありますが、ここでは割愛します

HPVワクチン接種でウイルス感染を100%防ぎきることができないし、検診で100%がんを発見し治療しきることができないため、これら両方を充実することが有効であると考えられています。

日本産科婦人科学会/HPV感染から子宮頸がんまでの進展過程と予防戦略
http://www.jsog.or.jp/uploads/files/jsogpolicy/HPV_Q%26A.pdf

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HPV感染から子宮頸がんまでの進展過程と予防戦略

日本産科婦人科学会/2030年にHPVワクチン、子宮頸がん検診、子宮頸がん治療のそれぞれの介入が、増加した場合の変化

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2030年にHPVワクチン、子宮頸がん検診、子宮頸がん治療のそれぞれの介入が、増加した場合の変化

【HPVワクチンの有効性が低い】→ウソ

HPVワクチンの有効性は、様々な研究により確認されています。ここで、日本産科婦人科学会の資料をいくつか引用します。

日本産科婦人科学会/HPV-16,18型に対する子宮頸がんワクチンの効果

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HPV-16,18型に対する子宮頸がんワクチンの効果

2価ワクチン(16型と18型がターゲット)の有効性は90%以上であることが示されています。

日本産科婦人科学会/20歳における前がん病変(高度異形成・上皮内がん:CIN3)の発生率

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20歳における前がん病変(高度異形成・上皮内がん:CIN3)の発生率

HPVワクチン接種世代では、前がん病変(がんになる前の段階)が減少していることが示されています。

日本産科婦人科学会/子宮頸がん予防についての正しい理解のためにPart1 子宮頸がんとHPVワクチンに関する最新の知識(第3.1版 2020年7月21日)
http://www.jsog.or.jp/uploads/files/jsogpolicy/HPV_Part1_3.1.pdf

3. HPV ワクチンの有効性3)HPV ワクチンにより前がん病変だけでなく浸潤がんが減少した証拠はありますか?

フィンランドにおける 3 つの臨床試験のワクチン接種者と非接種者のその後の浸潤がんの発症率を、がん登録を用いて 2007 年 6 月~2015 年 12 月の 7 年間検証した研究結果が報告されました28)。その報告によると、HPVに関連のない浸潤がんの罹患率はワクチン接種の有無で差はなかったのに対して、HPVに関連した浸潤がんの罹患は、非接種群では子宮頸がん 8 人(罹患率 6.4 人/100,000 観察人年)、外陰がん 1 人(0.8 人/100,000 人年)、口腔咽頭がん 1 人(0.8 人/100,000 人年)の計 10 人(8.0 人/100,000人年)に認められたのに対し、接種群では浸潤がんの罹患は 1 人も認められませんでした。

日本産科婦人科学会/子宮頸がん予防についての正しい理解のためにPart1 子宮頸がんとHPVワクチンに関する最新の知識(第3.1版 2020年7月21日)

HPVワクチン接種による浸潤がんの減少効果についても、「日本においては証明」されていないながら、海外では知見が積み上がってきています。

//前々項の「HPVワクチンには、子宮頸がんそのものを予防する効果は証明されていない」という表現は、ある意味正確です。試験や研究によって証明されているのは、HPVワクチン接種世代で前がん病変が減少したことまでです。
//ハイリスク型HPVの継続感染から前がん病変を経て、浸潤がん(子宮頸がん)に進行するため、ワクチン接種でHPV感染を予防できれば、子宮頸がんを含めたHPV関連がんを予防できることは自明です。「HPVワクチンに子宮頸がんそのものの予防効果は証明されていない」と強調することは、証明されているHPVワクチンそのものの有効性を無視した悪意のある論理だと言えるでしょう。

2020/10/5追記

医学雑誌のNEJM(The New England Journal of Medicine)から、4価のHPVワクチン接種により浸潤性子宮頸がんの発症を減らす効果があるとする論文が発表されました。

サムネイルのグラフから読み取れる通り、

【ワクチン非接種群(赤線)>17歳~30歳の接種群(青の長い破線)>17歳未満の接種群(青の短い破線)】
の順に子宮頸がんの発症率が減少していることが分かります。

スウェーデンの研究ではありますが、日本でHPVワクチンの定期接種の対象年齢が12歳~16歳相当になっている合理性が、こういった研究結果からも伺えるなと思いました。

以上

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