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コミュニティ戦略の事例を元に、ケースメソッドのケース教材を書いてみた

 こんにちは。2022年4月に始まった学生と会社員の二足のわらじ生活も、早いもので2年目に入り、気づけば春クォーターも終わって、残りは夏クォーターと秋学期となってしまいました。すでにWBSロスが始まりつつあります(苦笑)

 フルタイムの仕事をしながら、週に3〜4日キャンパスに通い、毎回3時間の授業に参加し、合間や週末に課題やグループワークに取り組む、という生活は正直想像以上に大変でした。ですが、日常の生活や業務では決して知り得ないアカデミックな世界での学びや、同じ志を持った仲間との交流がこれまた想像以上に楽しくて、かつてない充実感でたっぷりの日々を過ごしています。

 入学後の生活や学びについては、昨年9月に投稿したこちらのnoteに詳しく書いていますので、もし興味があったら読んでみてください。noteを読んでくださって、WBS目指していますという方からご連絡をいただいたりして、とっても嬉しいです。

 さて、上記のnoteを書いた後、1年目の秋学期にも、エキサイティングな学びや経験がたっぷりありました。
 中でも、秋クォーターにとった授業の一つである「実践事例研究」という科目は、いろいろな意味で私に新たな学びと機会をもたらしてくれたものでした。

 今回のnoteでは、この授業を通じて私がとあるユーザーコミュニティの事例をケース教材として執筆し、それをもとにケースディスカッションの授業や勉強会を開催した話について書いてみたいと思います。

 想定している読者は、以下の2種類の方々です。
(この①②と③があまり重複していなさそうなのが、また別の課題でもあります)

①WBSやビジネススクールの学生・志望者
②ケースメソッドに興味のある人
③戦略としてのユーザーコミュニティに興味のある人(コミュニティマネージャー、経営者、新規事業を担当している方など)

私がMBAでやりたかったこと

 そもそも私がMBAに行こうと思い立ったのは、「コミュニティのビジネス上の価値を明らかにするにはどうすれば良いのか?」という課題認識がきっかけでした。
 これまで複数のITベンダーでユーザーコミュニティの立ち上げや運用を行う中で、企業が自社のユーザーを対象にコミュニティの場を提供することは、「口コミによる新規顧客獲得への効果」「活用促進や解約率の低下」「顧客の声による製品の改善」など、マーケティングやカスタマーサクセスの広い領域において競合優位性を保つ重要な要素となることを実感していました。

 一方で、コミュニティがビジネスに有効であるという事実は、まだ経営層や多くの企業において認知・理解されておらず、成功事例もそれほど多くなく、コミュニティの担当者(コミュニティマネージャー)の重要性は認識されていないことも事実です。

 「企業がコミュニティに取り組むことは、市場で勝つための戦略の一つであり、(ビジネスモデルによっては)必須である」という認知を経営者にもたらし、コミュニティマネージャーの地位を向上させたい。そのための説得材料・根拠となる論文を書いてアカデミズムのお墨付きをもらいつつ、コミュニティの成功確率を高められるような、再現可能な知見・フレームワークを明らかにしたい。それが、MBAを志した理由です。詳細は、こちらのnoteに書きました。

 こういった課題を修士論文の中で明らかにすることはもちろんですが、それ以外の形でも何かのアウトプットを生み出せたら・・・と考えていたところに、

「実践事例研究」

なる科目があることを、1年目(M1)の夏頃に知りました。

「実践事例研究」とはどんな科目なのか?

シラバスによると、以下のようにあります。

「実践事例研究」では、受講生が教員の指導の下,各自の関心に基づいて実際にケース(ケースメソッドにおけるケース)を執筆する実習形式の授業である。このケースの作成は、履修者が論文を書く際のテーマ探しあるいはテーマの深掘りの素材として役立つと考えている。ケースの原案をまとめた上で、さらにケースの改訂を行い,完成度を上げていく。この授業では、ケースの執筆と並行的に、ケースを事例研究にまで高めていくための理論的・実践的意味についても考える。

早稲田大学シラバスより

 通常の授業では、毎週の授業回にはそれぞれカリキュラムが組まれています。講師によるレクチャーやゲストスピーカーによる講義、ケースによるディスカッション、あるいはグループワークの成果を発表するなど、内容は様々ですが、基本的に学生は講師一人と多数の学生という構図で進んでいきます。

 対して、「実践事例研究」という授業は、一人一人の学生がケースメソッドの教材としてのケースを自分で執筆することを目標に、教員による個人指導がメインで進めていくという形式の授業でした。 他の授業と比べると、正直かなり異質です。 というか、「個人指導」なので、もはやほとんど「授業」ではないような気も・・・? (実際には、最初と中間・最後には集合形式の「授業」がありましたが)

 ですが、コミュニティの価値をアカデミックな文脈の中で整理し証明したいと考えていた私にとっては、まさにうってつけの科目のように思えました。 コミュニティの成功事例を教授の個人指導を元に書き上げて、どこかで教材として提供することができたら、コミュニティに関わる人たちにとってとても良い学びになるのではないか? そう考えて授業の履修を決めました。

ケースメソッドとは?

 初回の授業では、長内先生によるレクチャーがありました。 その中で、私自身もこれまできちんと理解していなかったことですが、いわゆる「事例研究」と、今回書く予定の「ケース」は異なるという点を知りました。 「ケース」と言うとき、それは基本的に「ケースメソッド」の教材のことを指します。 名古屋商科大学MBAのサイトによると、ケースメソッドとは次のようなものです。

・ハーバードビジネススクールが始めた教育法の一つ
・MBAの授業でよく実践されている
・実際のビジネスで主人公(ケース企業の経営者等)が直面する意思決定を、参加者が自らの視点で追体験することを通じて「自分ならこう行動する」という姿勢を身につける

https://mba.nucba.ac.jp/about-mba/case.html

 つまり、「ケース」とは「ケースメソッド」というディスカッション形式の教育法に則った授業の教材、つまり材料となるものであって、書き手の主張や論説を提示するものではないのです。

 一方、「事例研究」は、自分の研究の成果として、書き手の理論や主張を伝えるための論文です。これはケースメソッドのための教材ではないので、特定の題材をテーマに研究者が自分の視点を入れて特定の事例を分析します。

 この二つは一見同じように見えますが、目的や使われ方に大きな違いがあるということを知っておくと、ビジネススクールで学ぶ時や論文を書くときに役に立つと思いました。

AWSのコミュニティをテーマにケースを書いてみた

 というわけで、2022年秋クォーターの「実践事例研究」の科目を履修した私は、鶴谷武親教授に指導をしていただきながら、意気揚々といろんな人にインタビューして回りました。

 私が選んだ事例は、クラウドサービスのトップベンダーであり、コミュニティの成功事例としても有名なAmazon Web Servicesのユーザーコミュニティの事例です。

 コミュニティ立ち上げの立役者であった元AWSのマーケティング責任者の小島さん、立ち上げ時のコミュニティ側のリーダーであったクラスメソッド社長の横田さん、元会長でフジテックCIOの友岡さん、そして元AWS技術責任者で現ソラコムCEOの玉川さんという、激務を極める業界有名人にお時間を割いていただき、貴重なお話をたくさんおうかがいしました。あらためて、この場を借りてお礼申し上げます。

 ちなみに、素直な実感としては、大学院でケースを書いているということをダシに、こんなすごい人たちの貴重な話を存分に聞けるとは、何という役得!!と思いました(笑)

 年末年始の休暇をケース執筆に費やしたおかげで、年明けには無事に初稿を完成することができました。そして、指導教授陣や同級生のフィードバックもいただきながら、何度も修正を繰り返していたところで、なんと指導教授の鶴谷先生から、こんなお誘いが。

「書いたケースで、実際に授業をやってみませんか?」

私の目的は、実際に教育用に使えるケースを完成させることだったので、こんなお誘いは渡りに船!とばかりに、武者震いをしながらもありがたく受けさせていただきました。

ケースメソッドの授業をやってみた

 そして、2023年の2月24日に鶴谷先生のゼミで実際にやらせていただいたディスカッションの様子がこちら。

鶴谷先生、鶴谷ゼミの皆さんありがとうございました!

 今まで、数人のパネリストを相手にしたファシリテーションをしたことがあっても、数十人を相手に90分間の授業をファシリテートするというのはこれが初めての体験。とても緊張しましたが、和やかな雰囲気の中なんとかやらせていただくことができました。

CMCアカデミー

 そこから立て続けに、ケースの主人公であり、CMC_Meetup(コミュニティマーケティングのコミュニティ)の発起人である小島さんからのお声がけで、「CMCアカデミー」としてコミュニティマネージャーを対象にケースディスカッションを翌3月に行うことになりました。

 ケースディスカッションの後は、小島さんによる好評と元会長の友岡さんによるレクチャーというなんとも贅沢な内容になりました。

小島さん、CMC_Meetupの皆さんありがとうございました!

 この時の様子は、アスキーの大谷イビサさんに取材いただき、とても素敵な記事にしていただきました。ありがたい!!

及川ゼミ合同ゼミでのケースディスカッション
 そして4月には、私が所属するWBSの及川ゼミでも同様にケース授業をファシリテートさせていただきました。
 こちらはWBSのマーケゼミである川上ゼミ・澁谷ゼミとの合同で、2コマのうち前半はケースディスカッション、後半は小島さんによるコミュニティマーケティングについてのレクチャーと、これまたてんこ盛りで贅沢な特別セッション。

及川ゼミ、川上ゼミ、澁谷ゼミの皆さんありがとうございました!

3回のケースメソッドの実践を通して

 というわけで、本当に幸運なことに、短期間(2023年の2月〜4月)に3回も異なるオーディエンスに対してケースメソッドの授業を行うという機会を得ることができました。

 こういうとなんだかすんなりと物事が進んでいるように聞こえますが、実際には、どんな問いを設定してどう授業を設計し、どうタイムマネジメントを行うかがもう本当に毎回必死で、それはもう手探りで大変な3回の経験でした。

 中でも感じたのは、「問いの立て方の巧拙一つで議論の質が変わる」ということです。
 イシューを発見したら、それは問題を解決したのにほぼ等しいということが言われたりもしますが、どんな問いを設定して参加者に投げかけるか次第で、出てくる意見のクオリティが幅広さ、その後の展開が変わってくるということを3回の実践の中で痛感しました。
 それだけに、根来先生をはじめとする教授陣の授業の問いの凄さが改めて身にしみて感じました。

 毎回試行錯誤したので、実は事前課題の問いは3回とも異なり、ティーチングノートも毎回書き直したので、当日の構成も毎回違っています。ですが、3回やったことで、なんとかこれでいけるのでは、という形に(曲がるなりにも)持っていくことができたように思います。

ケースメソッドで学ぶということ

 改めて私が感じるケースメソッドの良い点は、

(1) 特定の意思決定事例について、当事者の視点で疑似体験できる
(2) 得た気づきを今の自分の状況にどう応用できるかを考えるきっかけになる


ということです。

 事例を通じたケースディスカッションには、過去の事例からの学びを自分のNext actionにつなげられる強さがあります。
 これはコミュニティマーケティングのような、過去の成功事例が少なく、ノウハウやフレームワークが確立されていない事柄においては特に強力な学びになると思います。
 そして、MBAで学ぶということは、学び方を学べる(そして、伝え方を学べる)ことでもあります。

 今回私がケースを書き、授業をファシリテートするという経験を通じて得た学びを、ぜひMBAで学んでいる他の方にも味わっていただきたいなと思い、思い腰を上げてやっとnoteを書きました。

 そして、悩めるコミュニティマネージャーの方々には、いきなり「正解(How)」を求めるのではなく、過去の事例に身を置いて考えてみて、「自分ならどうするか」を考え、今の自分に置き換えた時に「どうするべきか」を思考するという体験をしていただきたいなとも思います。

最後に、 今後について

 というわけで、私が書いたケースは引き続き良いものになるようにブラッシュアップしていく予定ですが、早速またケースメソッドを実践させていただく機会が決まりました。

(1) CMCアカデミー大阪(2023年8月4日)
(2)
ICCサミット KYOTO 2023のセッション (2023年9月7日)

 なぜか2回とも関西方面での開催になるのですが、コミュニティの作り方をケースメソッドで学びたいという方、ご参加お待ちしております!

 そしてWBSの学生の方は、今年の秋クォーターの「実践事例研究」、おすすめですよ!(私は授業には特に関わりませんが)


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