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連載#02 メガバンクによる分解できる建築「サークル(CIRCL)」 (「サーキュラーエコノミー実践 ーオランダに探るビジネスモデル」抜粋記事)

*本連載は「サーキュラーエコノミー実践 ーオランダに探るビジネスモデル」(安居昭博 著 / 学芸出版社 2021年)からの抜粋記事です。

著者

安居 昭博
1988年生まれ。Circular Initiatives&Partners代表。世界経済フォーラム Global Future Council on Japanメンバー。ドイツ・キール大学マスタープログラム「Sustainability, Society and the Environment」卒業。 サーキュラーエコノミー研究家 / サスティナブル・ビジネスアドバイザー / 映像クリエイター。アムステルダムを拠点に50を超える関係省庁・企業・自治体に向けオランダでの視察イベントを開催、これまで1000社以上へ講演会・セミナーを開き日本へサーキュラーエコノミーを紹介してきた。2021年より京都在住。京都市委嘱 成長戦略推進アドバイザー。日本各地でのサーキュラーエコノミー実践と理論の普及が高く評価され「青年版国民栄誉賞(TOYP2021)」にて「内閣総理大臣奨励賞(グランプリ)」受賞。著書に「サーキュラーエコノミー実践 ーオランダに探るビジネスモデル(学芸出版社)」


サークルの外観



メガバンクによる分解できる建築

「銀行業もビジネスであり、これからはサーキュラーエコノミーに基づいた戦略が欠かせない」。
オランダの三大メガバンク「アイエヌジー(ING)」「ラボバンク(Rabo Bank)」そして「エービーエヌ・アムロ(ABN AMRO)」からはこのような姿勢が感じられ、それぞれ独自のサーキュラーエコノミー政策を掲げている。このうち特に注目を集めているABN AMROは、軍事産業への融資・投資を辞め、その分サーキュラーエコノミーやサステナブルビジネスを推進する企業への支援を手厚くしている。世界経済フォーラムが主催した2018年のダボス会議では、サーキュラーエコノミー分野へのファイナンスを先導した功績が認められ賞を受賞した。

(中略)

将来取り壊すことが考えられた建築設計

サークルの建設に際しては、サーキュラーエコノミーの本質である「廃材を出さずに、資源として使い続ける」ことが徹底的に追求された。その代表的な取り組みが、竣工前から取り壊しのことが想定された設計だ。
具体的にはまず、解体後に資材として活用しやすい木造建築が軸に据えられ、コンクリートの使用は必要最低限に抑えられている。そして、木製支柱の固定には接着剤が一切使用されておらず、代わりに金属製の留め具が採用されている。これにより、取り壊し時に90%の建材は分解し回収できるという、再利用が可能な設計が実現された。接着剤を一切使用せずネジで留めることで分解・修理しやすい設計は、規模の違うフェアフォン(134頁)でも採用されている。
また建築分野での廃棄物を削減するため、オランダではサークルのようにコンクリートに代わり木材を積極的に使用する試みが進められている。建築廃材から得られたリサイクルコンクリートの場合、主な用途にはアスファルトの舗装があるが、コンクリートが元々持っていた価値が著しく落ち、低価格でしか取引されないといういわゆる「ダウン・サイクル」の問題が生じてしまう。これに対して、金具で固定され形を変えることなく取り外し可能な木材であれば、解体時にも価値を落とさずに、別の建造物や家具に良質な材として再利用できるという利点がある。
サークルの建材には、地域で使用されなくなった資材や、欧州圏内で持続可能な伐採をする森林から採取され「FSC認証」を取得した木材が使用されている。また一般的に、建材としての木材は設計に応じて必要な太さだけが削り出され、残りは廃材にされてしまうが、サークルでは木の生育状態に応じて可能な限り太く切り出されている。これにより、サークルの建材として使用された後、固定金具を打ち込んでいた表面部分を削り落としても、残りの太さで再び支柱として活用できる。

木材が印象的なサークル内部


このように、資源が本来持っている価値をいかに落とさず活用し続けられるかという視点は、サーキュラーエコノミーを進める中あらゆる分野で非常に重視されている。特に建築分野においては、柔軟に取り外せることで資源の価値を落とさず、また建物の用途変更をしやすい設計・プランニングが導入され始めており、そうした建築物は「Buildings as Material Banks(BAMB:資源銀行としての建造物)」と呼ばれている。例えば、サークル内に設置されているエレベーターは、購入の代わりに使用回数に応じて課金されるリース式だ。サークルにとっては、購入よりもリースで使用回数に応じて支払う方が大きな初期投資を抑えられる。またリースサービスを提供する企業は、エレベーターに内蔵されているカウンターで使用回数を知ることができ、回数に応じて定期検査や消耗品の交換ができる。さらに、契約終了後にはエレベーターがリース元の企業へ返却されるため、建設時から取り外し可能な構造で設置されており、廃棄が出にくい仕組みだ。「建築=資材銀行」と見立てるBAMBという考え方は、建材や設備の価値を落とさず活用し続けるためコンクリートより木造建築に適している。そのためオランダでは都市部の人口増加に対し、高層の木造建築の建設が進められている。
「つくる段階から解体を考え、分解できる設計を導入する」という昨今の潮流を受けて、サーキュラーエコノミーの分野で活躍する人々の間では「欧州では今後、解体時に一定量の建材が資源として回収・再活用できる設計が求められる等、新築の建物についての法的基準が定められる」という見通しも立てられている。

(中略)

「ビジネスの透明化」を表すため、会議室内の様子は外からみることができる

◎銀行も推進する「ビジネスの透明化」

欧州企業の間でビジネスの透明化が進められている中、銀行でも融資・投資先情報を徐々に公開していく動きが見られている。欧州では、軍事・原子力産業へ融資・投資を行わず社会・環境へポジティヴな活動を行うプロジェクトを積極的に支援し、全ての取引先の公開を行う等の特徴がある銀行を「エシカルバンク」と呼ぶ。代表的な銀行には「トリオドス銀行(Triodos Bank)」「ジー・エル・エス銀行(GLS Bank)」「ウンヴェルト銀行(Umwelt Bank)」「エシック銀行(Ethik Bank)」が挙げられる。「トリオドス銀行」がオランダの銀行で、残りの3つはドイツの銀行だ。
こうしたエシカルバンクよりも規模の大きいABN AMROは、まだ全ての融資・投資先の公表までは行っていないが、可能な面から銀行ビジネスの透明化を進めている。一例としては、前述した軍事産業への融資・投資を辞める「ダイベストメント」が挙げられる。また、一般公開されているレポートの中では、遺伝子組み換えや動物実験等を行う企業に対する融資・投資について自社の見解を記してい。例えば、今後の人口増加に対し必要となる可能性もある遺伝子組み換えについては、厳格に判断するものの現時点では完全に融資・投資の対象から除外しない見解であり、また動物実験に関しても、医学分野でどうしても必要とされる場合のみ除外しない姿勢を示している。正しい答えが立場によって異なり線引きの難しい領域だが、自社の判断基準やその理由を公表することが利用者の信頼獲得に繋がっており、見解を示さない銀行よりも評価される傾向にある。
ちなみに、ABN AMROがビジネスの透明化を進める姿勢は、サークルのデザインにも表わされている。例えば、サークルの会議室は開放的なガラス窓で覆われているため、室内で行われている会議やプレゼンテーションの様子を通路から見ることができるのだ。自分たちの話し合いは隠す必要がないというビジネスの透明さを、さりげない空間設計で表現している。また、通常は覆い隠される天井の空調配線も剥き出しで設置され、電装室内部も外窓から透けて見える等、透明化というコンセプトを一貫してセンス良くデザインすることが徹底されている。

(続きは本書にてお楽しみください。)


※本連載は「サーキュラーエコノミー実践 ーオランダに探るビジネスモデル」(安居昭博 著 / 学芸出版社 2021年)からの抜粋記事です。

CIRCL
https://circl.nl/