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案山子のいる光景に惹かれた。「オーデュボンの祈り」を読んで【ネタバレあり】

伊坂幸太郎作品を初めて読んだのは「ゴールデンスランバー」だった。見えない悪と闘う逃走劇で、続きが気になり一気に読み進めたのを覚えている。

話の設定や、軽快な台詞のやりとりに惹かれ、他の本も読んでみたいと、
「魔王」
「モダンタイムス」
「火星に住むつもりかい?」
「PK」
「シーソーモンスター」
と、読み進めた。

そして、ふと思った。

「あれ?デビュー作ってどれなんだっけ?」と。

調べてみると「オーデュボンの祈り」というタイトルらしい。また話が想像できないタイトルだ。本の裏に書かれたあらすじを読んでみても一切話がわからなかった。

ということで、デビュー作である「オーデュボンの祈り」を読むことにした。

※ここからの内容は、ネタバレを含む箇所があるので、まだ読んでいない方はご注意ください。

不思議な話の始まり、喋る案山子

読み始めてすぐに「あ、不思議な話だ」と気が付く。

だって案山子が喋りだすから。

案山子。あの田んぼにいる案山子。

明らかに不思議な光景なのだが、なぜだかその光景は頭に浮かぶ。しかも、その様子はもの凄く綺麗で、空気は澄んでいる。そして、なぜか夕焼けのイメージ。

以前から案山子の「優午(ゆうご)」を知っていたみたいだ。

伊坂幸太郎作品は、最初の数十ページを読むと、既に何百ページも読んでいる気分になる。

漫画で言うと、7巻くらいから読んでいる感覚。

それ程に最初の数十ページで、話の輪郭がくっきりと見えてくる。

伝わってくる孤独と切なさ

最後まで読み終わると、まず優午の切なさが伝わってきた。一人だけ全てがわかっているのはどんな気持ちなのだろうか。しかも手は出せない。案山子だから。

犯人は当てられても、犯罪を防ぐことはできない。ジレンマ。それは、ただ何もできないよりも辛いことなのではないだろうか。

優午の立っている姿が頭に浮かぶ。しかも後姿。

ひとりで100年以上も過ごす苦しみ…というよりあきらめのようなものを感じる。自分が生きていても仕方がないということ、そして人間のどうしようもなさに。

きっとその時に彼は、人間を見限ったのかもしれない。

伊坂幸太郎『オーデュボンの祈り』新潮文庫 p.409

この言葉がしっくりくる。見限る。見限りたくなる気持ちもわかる。人間の愚行に。

それは、アメリカのリョコウバトのことだけでなく、島の人々に対してもだと思う。

優午は、鳥から情報を聞いていた。島の話から世界の話に至るまで。まるで現代のtwitterのようだ。

世界中の情報を集めることができるが、自分にできることは少ない。あまりにも酷いSNSの荒れ方に、人間を見限りたくなる気持ちと同じなのかもしれない。

「桜」という絶対正義は、今でいう「世間の目」なのかも。謝罪をしたところで「理由になってない」と。法ではなく世間が裁く。

色褪せない作品

発表されて20年以上経つ作品だが、まるで現代の世界を見ているかのように感じた。現代の世界というより、人間の本質?

いつまでたっても色褪せない作品というのは、こういう本なのかもしれない。

作品全体を通しての雰囲気がとても好きだった。

ただ、いつになっても城山だけは許さない。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。この先の有料部分では「日記」や「活動記録」「他愛もない話」をつらつらと書いていきます。

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