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人生模索

「豊かな人生」を送るために模索していくことを書き連ねていきます。【ショート小説 / 読書・映画感想文 / 旅行エッセイ / 模索したこと】などなど。
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ショート小説『おとり捜査』※1741文字(約3分)

 キラキラと煌めく星の下で、右手に血の付いた包丁を持ち仰向けに寝ていた。山の中だということはわかる。だが記憶はない。頭が痛い。 「おい」と声が聞こえる。起き上がり声の方へ目をやると一人の男が立っていた。くたびれたスーツに輝きを失った革靴、ぼさぼさの白髪交じりの黒髪。何十年も見てきた顔、間違いなく「私」だ。私が目の前に立っている。 「お前は誰だ?」と私は声を掛ける。男は「私はお前だ」と答える。私が眉間に皺を寄せると「明日のお前だ」と男は言う。「そんなことはどうでもいい。とにかく

【#読書記録】2024年10月に読んだ本のまとめと感想。ついに新書に手を出した!

2024年10月に読んだ本は全部で11冊。1冊毎に、ちょっとずつ紹介していきます・ 1.何様(朝井リョウ,新潮文庫)第153回芥川賞受賞作である「何者」のアナザーストーリー6篇。 「何者」を読んでいなくても話としては成立しているが、「何者」を読んだ後、すぐに読んだ方がより楽しめるとは思う。 1つ目の「水曜日の南階段はきれい」の雰囲気、空気感がものすごく好みだった。タイトルも秀逸。「逆算」の終わり方も好き。 生きていると感じる自分の中にしか留めておくことができないような

過去の名作を読むか?新刊を読むか?問題

本屋に行くと困ることがある。 新発売の単行本、文庫本がものすごく魅力的なのだ。 本屋の入口には新しく発売した本がいくつも平置きで積まれ、その表紙が仲間になりたそうにこちらを見ている。 そこを無視して通り過ぎることは私にはできない。が、本を読んでいるとよくこのような言葉に出会うことがある。 「過去の名作を読んだ方が良い」 つまり新しく発売された本というのは、名作か駄作かわからないから、名作と呼ばれるものを読んだ方が、効率が良いということだ。 言っていることはよくわか

【#多様性を考える】理解すると受け入れるは違う。

多様性について考えさせられた本がある。 『正欲(朝井リョウ,新潮文庫)』。 多様性と言うと、LGBTQ+やルッキズム、変わった趣味などが取り上げられることが多い。 最近では、特に令和では昭和の頃に比べ、市民権も得てあたりまえになってきているとも思う。 では、これが多様性の全て、もしくは大半を占めるのかと言うと、そういう訳ではないと思う。 もっと理解できないものがある。もっと色々な多様性がある。想像もできないような。 この「正欲」の登場人物たちは、想像もできない「欲

【#読書感想文】分人という考え方。話す相手によって性格が変わるのはなぜか。「私とは何か」を読んで。

話す相手によって性格の変わる自分に悩んだ経験はないだろうか? 家族と話している時の自分、高校の友達と話す時の自分、大学の友達と話す時の自分、それぞれ性格が違う。 口数が多くなる場合もあれば、話さなくても居心地の良い場合もある。 どれが「本当の自分」なんだ?と。 別に意識的に性格を変えているわけではない。なぜだか勝手にそれぞれの友達に合わせキャラが決まっている。 就活で自己分析をした時に、この悩みにぶち当たったことをよく覚えている。 その問題は、結局うやむやになり1

【#読書記録】2024年9月に読んだ本のまとめと感想。知らない世界を知れた1か月。

2024年9月に読んだ本は全部で6冊。1冊毎に、ちょっとずつ紹介していきます・ 1.スクラップ・アンド・ビルド(羽田圭介,文春文庫)第153回芥川賞受賞作。又吉直樹「火花」と同時受賞。160ページしかなく、文体も読みやすく、スラスラと読めてしまう。 ただその軽快な文体とは裏腹に、内容は重く、考えさせられる事柄が多い。いつか自分が経験するのでは、その時自分は何を思うのかと、読みながら想像してしまう。 介護の経験の無い私には共感できる部分は少なかったが、生きるということ、そ

【#読書感想文】世界は不安定だと気づかされた話。「世界は贈与でできている」を読んで。

「世界は贈与でできている」を読んでいると、世界は不安定だという話が出てきた。 この話は、のほほんと生きている私にとって、頭をハンマーで殴られたような衝撃だった。 例えば、通勤するときに、電車が遅れたとする。それは、正常か異常か? 何も起こらないことを「正常」、何かが起こることを「異常」と捉えてはいないだろうか? この本を読む前の私なら「異常だ!」と答えていたであろう。誰かが何かをしたから電車が遅延した、と思っていた。 だが、それは逆なのだと気づかされた。 誰かが何

【#読書感想文】余白の時間が大事なのだと感じた。「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」を読んで。

話題となっていた「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」を読んだ。 そもそも人はなぜ本を読むのか、読書という文化はいつごろから始まったのか、という所まで話を掘り下げていて、とても興味深い内容だった。 本を読むことの大切さは、この2年間、本を読んできたことで実感している。 学生時代も会社員時代もほとんど本を読んでいなかった私の知識や教養は、ほぼ周りの影響とテレビ、そしてネットのみで構成されていた。 本を読み始めてからは「なんて自分は無知なんだろうか」と新しい本を読む度に

「やばい禁止令」を自分に出した。感情はひとつだけじゃないはず。

いつからだろうか。気づけばほとんどの感情を「やばい」に頼っていたように思う。 このステーキ「やばい」ね。 その暴言は「やばい」ね。 10連勤とか「やばい」ね。 USJ「やばい」ね! 楽しいことも、悲しいことも、美味しくても、感動しても、口から出てくる言葉は「やばい」の3文字のみ。 自分が何を感じているのか、そのすべてを「やばい」の一言で片づけていた。 だが、それでコミュニケーションに困ったことは無かったし、不安に感じることも無かった。 ただどうだろうか。自分の感情を

「普通」という言葉の魔力。

「普通」という言葉。2年前、本を読み始める前の自分は口癖のように言っていたのを覚えている。 普通に考えたらわかる、とか。 普通だったらそんなことはしない、とか。 普通、ラーメンはとんこつだよね?とか。 普通という言葉に縛られ、どのような問題に対しても、条件反射のように「普通は~じゃない?」と答えてしまう。 それは自分の人生に関しても同じだったようにも思う。 普通に大学に行って、普通に就職して、普通に結婚して、普通にマイホームを買い、普通の人生を過ごす。 これがロール

【#読書記録】2024年8月に読んだ本まとめ。SFの良さとクリエイターの素晴らしさを知った1か月。

2024年8月に読んだ本は全部で7冊。1冊毎に、ちょっとずつ紹介していきます。 1.完全なる首長竜の日(乾緑郎,宝島社文庫)面白い。続きが気になりあっという間に読んでしまった。SFミステリー。終わり方が、個人的にはかなり好み。 内容に言及したいけど、言うとネタバレになってしまいそうなので。 とりあえず、この本を読んで、サリンジャーの本を購入した。読んだ人には意味が分かると思う。 2.滅私(羽田圭介,新潮文庫)物を捨てることが気持ちいい、部屋に物を置きたくないという気持

【#読書感想文】小松左京「復活の日」。小説家の頭の中は一体どうなっているんだ。

小松左京の代表的作品「復活の日」。 もともと小松左京の小説は「日本沈没」しか知らなかったのだが、「世界は贈与でできている」という本で、この「復活の日」について言及していたので興味を持った。 あらすじを読んだ段階で、これはここ数年、世界を悩ませ続けたあのパンデミックのことだと思った。 小説家が未来を考えると、ここまで予測ができてしまうことに驚いた。 少し読むだけで、小松左京がどれだけの勉強をし、どれだけの時間をかけて考えていたのかがわかる。 軍事利用の為に開発したウイ

ショート小説『ひきこもりゲーム』※3103文字(約6分) 

「Home Homeってゲーム知ってる?」 「え?」 「ホムホム。聞いたことない?」  ホムホムとの出会いは高校3年、外に出るのが嫌になる暑さの続く夏の日だった。前の席のクラスメイト(ホムホム上でのアカウント名は「カズサノスケ」)からホムホムを知らないか聞かれた時だ。  部活も終わり、受験勉強しかすることが無かった、あの時に出会った。  ホムホムは、家にいる時間が長い方が勝つというシンプルなゲームだ。1日の内、どのくらい家にいたのか、それを競う。  猛暑の続く夏の日をでき

ショート小説『タワマンキャンプ』※2283文字(約5分)

「ねぇ!タワマンキャンプに行きたい!」  来年中学生になる息子が夕食のハンバーグを食べながら言う。 「何キャンプだって?」 「タワマンだよ!タワマン!」 「タワマン…って、30年くらい前に流行った、あのタワマンか?」  息子は箸を動かすのを止め眉間に皺を寄せる。 「よく知らないけど、友達が今度行くんだって!夏休みどこにも行ってないんだから連れてってよ~」  息子の話を聞きながら、携帯の検索バーに「タワマンキャンプ」と入力する。 『タワマンキャンプとは、タワーマンションキャン