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日産で学んだ、リーダーにとって最も大事な「Lead the self」

こんにちは。デザイン会社グッドパッチで人事責任者をしている「チャッカマン」こと井出です。まだまだ初心者マークは取れませんが、記事の投稿は4回目。前回とは趣向を大きく変え、今回は「リーダー育成」をテーマにお話しします。

リーダーシップについては、定義・要件・育成の仕方など、多くの著書や論文もありますが、私自身も日産時代、幹部候補のリーダー育成に携わっていたことがあります。現在は様式などが異なっているかもしれませんが、当時の経験や気付きなどを実践知として、まとめていきたいと思います。

リーダー育成に携わっている人事や経営者の方、そして、これからリーダーを目指す方の役に立つ内容になればうれしいです。


「まだ早い」「まだ若い」からの脱却 日産のリーダー育成プログラム

私が日産でリーダー育成に関わっていたのは、2017年から2019年の約3年間。20代、30代という将来幹部候補となる世代のリーダー育成プログラムの企画推進を任せてもらっていました。

日産という巨大企業で20代から幹部候補、というと「若いな」と思われる方もいるかもしれません。まさにそれが当時の日産が抱えていた課題で、日本人ビジネスリーダー育成のコンセプトは「Too early, Too young シンドロームからの脱却」でした。

日本ならではの「まだ早い」「まだ若い」が、海外の優秀タレントに比べて登用を遅らせ、結果的に主要なグローバルでのキーポジションにおいて、日本人のプレゼンスを下げる要因になっていたのです。

したがって、いかに最短でビジネスリーダーに必要な経験を積み、リーダーシップを磨き、成長してもらうか──これがプログラムのキモでした。

このプログラムでは、20代後半から30代前半の各職能の優秀層から選抜したメンバーに対し、リーダーシップアセスメントで、彼らの強みと弱みを可視化した上で、育成施策で成長を加速させていきます。


プログラムサイクル

育成施策のメインは「修羅場経験の付与」となっており、日産のビジネスリーダーに必要なクロスボーダー経験とPL責任を持つ経験、マネジメント経験を2〜3年×2回、合計で5年〜6年にわたって機会の付与を行っていました。

経験付与コンセプト


会社が求める人材ではなく、自分の意志に向き合う──「Lead the self」への方向転換

担当して2年が経ち、プログラムのタレントが80名を超えるくらいになったころ。私は徐々にある違和感を抱き始めていました。

プログラムに参加しているタレントたちは、覚悟を持ってビジネスリーダーになることを目指してくれていたのですが、「日産が求めるリーダー像」に必死に近づこうとするあまり、本来の自分を見失っている方が出てきていることに気づいたのです。

中には、プログラムとして目指してほしいとしていた「プログラムディレクター(車種ごとのPL責任を持つポジション)」や、海外の「マネージングディレクター(地域の販売責任を持つポジション)」に就くことが目的になってしまい、そのポジションに就くことで、何を成し遂げたいかという、より大切な、意志や目標を語れないタレントも出始めていました。

また、外部からのアセスメントでも、課題解決能力や調整力は長けているが、アントレプレナーシップやチェンジリーダーシップの弱さも指摘されていました。

そうした課題を解消するため、プログラムを担当して3年目の年度初めに大きな方針転換を行いました。説明会を開催し、参加しているタレントに以下のようなメッセージを出しました。「Lead the self」 への方向転換

「Lead the self」
チームや会社をリードする前に、しっかり自分を見つめ、自分自身の中にある情熱や価値源泉に基づいたリーダーシップを発揮してください。

そして、その方針発表の後、一人ひとりとの面談で、

「あなたはどういったリーダーになりたいですか? 何を成し遂げたいですか?」

というオープンな質問をしていきました。それまでの定期面談では、

「あなたの足りないところはアセスメントの結果から⚪️⚪️です。それをこういう機会を通じて磨きましょう!」

というように、答えを渡すようなことをやっていました。なので、突然「あなたは一体何者か?」といった問いを投げられ、戸惑った人も多かったと思います。

また、面談で問いを投げるだけではなく、自分を取り戻してもらうため「自分の内側を知り、自分らしいリーダーシップを描く研修プログラム」を希望者対象に実施しました。

*当時の詳細の様子やプログラムがMichimaruさんのWorksになっているので是非ご覧ください。


自分らしさを取り戻したタレントたち

方向を転換して、自分を取り戻す研修機会も作ったことで、変化が見られるメンバーも出てきました。

「実は私のリーダーシップスタイルは ”副キャプテン” なんです。組織の上にたってVisionを語り旗を振るのは実は苦手で、キャプテンが拾えてない三遊間を埋めたり、組織状態を俯瞰的にみて課題解決をするのが得意なんです。今後は自分らしいリーダーシップを模索していきたいと思います」

このように、自分のリーダーシップのあり方を見直し、自分自身をありのままを受け入れ、そこを起点に自分らしいリーダーシップスタイルを見出す人が出てきました。

そもそも、リーダーシップの形は1つではありません。有事に効果的な「統率型リーダーシップ」、自走できている組織では「サーバントリーダーシップ」、変革が必要な時には「チェンジリーダーシップ」──巨大な組織をリードするにあたっては、さまざまなリーダーシップの型を持ち、その時々の事業や組織の状況によって、使い分けができることが必要なのです。

他方、人としての魅力を生み出し、人を惹きつけ、チームに力を与えるのは何か? 私は、それこそが一人ひとりの持ち味、「らしさ」をベースにした「オーセンティックリーダーシップ」であると考えています。

彼ら一人ひとりは「日産の幹部になる」という目標を持ったタレントです。リーダーの人としての生き様、価値観、想いが滲み出る時、人はその人についていこう、一緒に走ろう、と思うのではないでしょうか

人材育成の道のりは長く、あの時の方向転換と働きかけが、今彼らの中にどう活きているかは分かりません。その真価が出てくるのは、もしかすると10年後かもしれません。

長い時間がかかっても、不確実でも。リーダーの立場で仕事をする人が、さまざまな修羅場経験を超えていきながらも、自分を見失うことなく、生き生きと活躍することが、チームや会社を前進させ、社会全体を前進させるのではないかと思うのです。

タレントたちへの問いかけが、「自分自身」にも返ってきた

この話には、後日談があります。「Lead the self」を掲げて、毎日のように一人ひとりに問いかけていた中で、その質問は自分自身にも向けられるようになりました。

「ところで、私自身は自分らしく ありたい姿に向けてチャレンジできているのだろうか?」

間違いなく、当時の仕事に生き生きと取り組んでいた自信はありましたが、一方で、巨大な自動車会社の組織の中でできることの限界も感じるところもありました。

そして、リーダー育成で教えてもらえた「一人ひとりに向き合う」を大事にしながらも、会社全体の成長やVision/Missionの達成を、人事としてできることを尽くして牽引できるようになりたい。そういう形で社会に爪痕を残すことを決め、ベンチャーに飛び出すことを決意しました。

日産を辞めることが発表された際、プログラム参加者のみんなに対し、

「私も”自分らしさ”をベースにありたい姿を目指して挑戦することにしました!」

というメッセージを残したところ、大きな反響とたくさんの嬉しいメッセージをもらいました。一部を紹介させてください。

「井出さんが行動に移されている姿を見て、私も井出さんに負けないように頑張らなければと感化されました。」

「JBLPに参加して井出さんに出会うまではなとなく仕事をこなしていただけでした。いろいろお話させていただくことで、何で、何のために働くか今はすごく意識でき、取り組み姿勢が変わりました」

「このプログラムに参加したことで会社人生が変わりました。私も井出さんを見習って道を拓きます!」

「井出さんの人材育成の情熱にいつも励まされています。夢を持つことで人生が豊かになると思います。井出さんの姿を見て私も自己探究を続けたいと思います。応援してます!」

JBLPのみなさんからいただいた色紙より

私自身がいろいろなリーダーに何かしらかの影響を与えられたのなら幸いですし、私も彼らに胸を張れるようなリーダーになれるよう、さまざまな挑戦を続けていきたいと思っています。

日産の日本人ビジネスリーダー育成プログラム(JBLP)について詳細は、以下の記事でより詳細に書かれているので、こちらもぜひ参照ください!



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