エドワード・ゴーリー 『失敬な招喚』

★★★★☆

 せっかくなので、先々週に引き続き、先日出たばかりのエドワード・ゴーリーの新刊をご紹介します。訳者はもちろん柴田元幸。

 原題は『THE Disrespectful Summons』。直訳すると「失礼な呼び出し」といった意味です。悪魔がやって来る話なので、上記のようなタイトルになったのでしょう。的確です。

 ちなみに、裁判などで証人を呼ぶのは『召喚』、悪魔を呼び出すのは『招喚』のようです。僕のパソコンでは『しょうかん』とタイプしても『招喚』とは出てきませんでした(悪魔を呼び出す機会はあまりないので、問題ないですが)。
 こういった細やかな配慮がさすがです。

 脚韻を踏んでいる原文に倣い、訳もすべて脚韻を踏んでいます(散文的な訳はあとがきに載っています)。その意味と音韻とのバランスがいつもながら見事で、まるでラップのようです。リズムのよさはひょっとすると原文に勝っているような気がします。

 ストーリーはというと、一ページ目からアクセル全開といった感じで進んでいきます。実にゴーリー節。

 善悪といった単純な捉え方や条理を廃した作話、線を多用した密度の高い絵づくり、それでいて妙にかわいらしいキャラクター(表紙にも描かれている怪鳥ベエルファゾールの愛らしさったら!)、そういった要素が奇妙なバランスで成立しています。
 このセンスがエドワード・ゴーリーを無二の作家にしています。

 始まりも唐突なら、終わり方も唐突です。けれども、いい話とかひどい話とかいう区分はできません。
 人によっては、「意味がわからない」と言いそうですが、意味=筋道というのはあくまで一面的な見方でしかないわけで、べつの階層から見ると、意味性とは異なるレベルでの理のようなものが見えてくると思います。
 そういう意味でも、エドワード・ゴーリーという人は『作家』だったのだなと思います。

 これまで訳されている作品と比べると、今作はキャッチーな方だと思います。ダークな風味も抑えめだし、画面も余白が多くて明るめですから。
 初めて読むゴーリー作品がこちらでも問題ない気がします。

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