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【エッセイ】日焼けした次の日はアンニュイ

日焼けした次の日はアンニュイなことが多い。

2日続けてのピーカンが当たり前にあるわけでもない地域柄のせいか、夏の幻を見たどこか夢現な曇り空に、アイスコーヒーを淹れる数分でさえどこか気怠い。
そんなモヤッとする朝に照りつける太陽の昨日のしょうもないことが思い出される。

「ヘイ!フレンド!」

年中どこか抜けているのに真夏日の暑さで一段とボーッとしていた私に前方からやって来るアラブ系の若い外人男性二人組がそう声をかけてきた。

はじめは単純に違う誰かに(フレンドである人物に)声をかけているのだとボーッとしてるなりに頭で処理し、スルーしたのだが、「エクスキューズミー」と顔をひょこっと出されたので(あ、俺なんだ…)と虚ろな顔で立ち止まった。

どうやら観光客のその二人組は道を尋ねているようだった。
が、容赦のないオールイングリッシュ。
片言でも日本語を使ってくれない。
一切使ってはくれない。
そしてこちらがあたふたと片言で英語を絞り出す。捻り出す。時々フリーズする。

「KFC。KFC」と、しきりに口にするアラブ系のいかつい男性。

「ケーエフシー?ケー…エフ…シィー?……んー…、」
私はKFCが何なのかわかりそうでわからない。

以前芸人の友近がお笑いグランプリの審査員を模写したコントをしていた。
そのネタで
「USJ(ユニバーサルスタジオジャパン)に行くつもりがJFK(ジョンエフケネディ)に会いに行ったってあったよね?ちょっと無理があるんじゃないかな?」と、芸人にコメントしているくだりがあって、KFCはすっかりJFKに変換され私の頭を埋め尽くした。
もう頭の中は友近のコント一色になっていた。

思考停止した私にいかついアラブ系男性はスマホの画面を見せてきた。
赤と白が織りなす有名なあのおじいさんの顔。

「あー、はいはい、ケンタッキー」

私はやっと理解した。
彼らはケンタッキーがこの近くにあるか知りたかったらしい。
私は「ナッシング」と答えた。
ここらへんにはないという意味で「ナッシング」しか浮かばなかった。
二人組は残念そうにOK、OK…と言うと次に「タクシー?」と尋ねてきた。

「ヒアー?」
私はここに?と、指を地面にさした。
頷くいかついグラサン男。
タクシーを呼ぶならこの番号にと教えたがしばらく考えてからセンキューと言って二人は去っていった。

私はユアーウェルカムではなくソーリーと呟いた。

もっと英語が話せたらと急に落ち込んで、肩を落として私もその場を去った。

そもそも他にも人があんなにいたのになぜ私だったのだろう…。今にはじまったことではない。昔からよく声をかけられていた。しかも人混みで。拝ませてくださいなんてこともあったがそれはさすがに急いでいるのでと逃げた。

とりとめもない、なんでもないことがアンニュイな朝に蘇る。

トイレットペーパー、高くなったよなー。そのくせ質落ちたよなー。田中みな実はいつの間に女優になったんだろう。あ、一緒に出てた吉沢悠、懐かしかったなー。吉沢悠といえば「動物のお医者さん」だよなー。配役完璧だったなー。配役大事だよなー。あ、そうだ、この前見た松本清張のドラマ「鉢植えを買う女」。余貴美子良かったよなー。最高に怖かった。タイトルもそそるし。松本清張はタイトルつけるのも天才だなー。あのドラマ、テレビ東京のだったよなー。テレ東こっちでは映らないからなー。いいなー、こっちでもみたいよなー………。

もう、アンニュイな朝は間欠泉が噴き出るが如くここ数日の忘れかけていた記憶を呼び覚ます。

そして、また振り出しに戻ってしまう。

あぁ、なんで外人ってあんなにフレンドリーなんだろう。(全員ではないが)
はじめて声をかける人に「ヘイ!フレンド!」なんて…。

考えたって仕方ないことばかり尾を引いてしまう。

アンニュイな朝…。でも嫌いじゃない。

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