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【エッセイ】渡鬼ともだち

(ポケベル→ピッチ→ガラケー)


僕はつくづく丁度良い時代に小中高と教育を受けられたなと有り難く思う。
便利すぎず不便すぎず。
高校生になって携帯電話を持つことが許される。
そんな風潮だった。
時代はまだガラケーオンリー。
16和音の着メロは大好きな松たか子さんの「夢のしずく」をチョイスしていた。
クラスは男女共学の40人いないかくらい。
そこが高校生の小さな、それでも毎日の生活の基盤となる社会だった。

時代に関係なく不変なことといえばグループが分かれること。
派閥というほど大それたものではないが
やんちゃなイケイケグループとちょっとオタクグループ、そしてその真ん中のハイブリッドグループの3組に大体分かれる。
真ん中の層は厚くこれもまた幅広いのでそのグループ内でもグループが点在する。
そして僕はというと真ん中に属していたんじゃないかなと思う。

この真ん中ハイブリッド組は交易盛んな中継地点となることがある。
3組に分かれても卒業まで他のグループと関わらないことはまずないので、臨機応変に差し障りなくやり過ごすことがどのグループにも必要となってくる。
そこで学校の催し物やクラスでのあれやこれやの橋渡しは真ん中組が担うことが多かったように思う。
先生も何か頼みごとや言付けがあれば真ん中組経由だった記憶。

(Bくん登場)

ヤンキーグループとハイブリッドグループの狭間に忍びのように存在する一人の青年がいた。
Bくんである。
Bくんは「ドラゴンボールZ」のベジータに憧れており筋トレで鋼の肉体を得ていた。
でもBくんは喧嘩は嫌いだし人に危害を加えるような乱暴なやつではなかった。

ある日ガラケーの着メロが鳴った。
その着メロは橋田壽賀子ドラマ「渡る世間は鬼ばかり」のオープニングテーマだった。
なんと!?
そのメロディは岡倉家の五人の娘たちが嫁姑問題やそれぞれの家庭が抱える問題をテーマに繰り広げられるあの「渡鬼」ではないか!?
僕は小さな頃から「渡鬼」が好きで毎週欠かさず観ていた高校生だった。
Bくん!そんなキャラで君も「渡鬼」が好きなのか!?
僕はとてつもなく興奮した。
そして当たり前のようにBくんに話しかけたのだ。

「ねぇ?その着メロ、渡る世間は鬼ばかり?」

盛り上がった。
どんなタイプであれ「渡鬼」の話が出来る友達(同級生)などいなかったのだ。
それがまさかまさかのBくんとは。

「五月(次女役の泉ピン子さん)あんなに我慢しなくてもいいのにねー」とか
「岡倉家ってなんやかんやでお金持ちじゃない?」とか。
自分たちの母親以上の年齢層に人気のある「渡鬼」を男子高校生が語らっている画は思い返してもプッと笑えるものがある。

「渡鬼」がきっかけで僕はBくんと仲良くなった。
「昨日の観た?」
「観た観た」
これが毎週金曜日の僕らの決まり台詞になっていた。(ドラマは木曜21時放送だった)

僕はBくんと仲良く話していると少し強くなれた気がしていた。
虎の威を借る狐。
とは、思いたくないが、周囲はBくんと仲が良い自分をどう思ってみていたろう?
僕にとってBくんは少しヤンキーっ気のあるよく笑う気の良い友達だった。(に、なっていた)

今なら言えることだけどヤンキーだからとかオタクだからとかくだらない。
でも、当時の僕にはそうは思えなかった。
ヤンキーへの憧れもあったろう。
同化することで、仲間に入れることでどこか安心していたんだと思う。
でも、やっぱり今になって言えることがある。
気の合う奴はグループが違ってもその中にいるし、何かがきっかけでともだちにもなれる。と。

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