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【コラム】ドラマ「櫂」の台詞

1999年に放送された宮尾登美子原作
NHKドラマ「櫂」
主演は松たか子さんだった。
VHSに録画して何度も観ていた。
作中、室田日出男さん演じる酒好きの医師、宮下が松さん演じる喜和を励ます台詞がいくつかある。
ネタバレにはならない範囲で台詞だけでも紹介させてください。
あの頃とまた違う重みを感じたことと、室田さんの演技が沁みるのだ。

悲しみのどん底でその台詞はかけられる。

「苦しみっちゅうもんは必ず峠があるもんじゃき。病というのはみんなそうでの…辛いのを通り越してやっと治るが。人生は学校。幸福より不幸の方が良い教師。若い時に読んだ本にそう書いちょった。こん歳になって思うたが正にその通りや」

この台詞をじっと隣で正座して聞く喜和。
舞台は高知県なので土佐弁。
それがまたおうちょる(合っている)

そして全六話の最終回、川で釣りをしている宮下医師とこれからの自分の生き方を真剣に悩む喜和が川辺で話す場面で

喜和「人の世はどういてこう上手くいかんがですろ?ほんまに不思議やと思います。噛み合う時は嘘のように上手くいくのに、ちょっとずれるととことんおかしゅうなって…。神さんが意地悪しちゅうとしか思えん時があります」

宮下「人生は不可解。そうやきおもしろいがと違うか?」

喜和「おもしろい?」

宮下「人の世は○❌▲(まるばつさんかく)の繰り返しじゃ。思い通り上手くいくと思えばどうあがいてもどうにもならんこともある。それに人と人が出会えばどうしようもない矛盾も出てくる。つまりは人生は不可解。わからんとわかっただけでも大人になったんじゃき」

そして、川を一隻の舟が通る。
それを眺める二人。

宮下「櫂は三年櫓は三月。操り方をやっと覚えた櫂も浮かしておけば流される」

喜和「うちは今流されゆうことですか?」

宮下「どこへ行き着くかはわしにはわからんが漕ぎ続けることだけはやめたらいかん」

喜和は遠ざかる舟をじっと見つめる。

この、シーンはこのドラマの中でも特に重要な分岐点になっている。
時代は大正、女性の社会的立場が軽んじられていた閉塞感漂う中で女性の幸せとは、生き方とはを追及し模索し続ける喜和がくだした決断とは…
と、話はクライマックスを迎える。
何度も一時停止し、巻き戻ししながら台詞を書き起こしノートに残していた。
今、この台詞が再び響くのは自分と重なる部分があるからなのかもしれない。

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