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【詩】異国人

オーストラリアのトニーはどうしてメリーポピンズを例えに出して笑っていたのだろう
何を言っているのかなんとなくわかるのにどうしても言葉で答えられない
大きなスナック菓子の自動販売機がペプシブルーにてかっていた校舎の隅に
白塗りの道化師に扮した女子たちにいつの間にか囲まれて僕はとりあえず笑った
脂身のないステーキ肉が病みつきになるほど美味しくて生まれてはじめて3枚食べた
冬の空と雲と絵になる金髪の少年の膝まで浸かった海の水
僕はカメラのシャッターを押した
好きな硬貨をあげるよとたまたま選んだ君のつまんだ五百円玉
確かにあの夜この家のソファには君のお兄さんが恋人とキスをしていたはずなのにそれ以来影も形もないままグッバイも言えずに置き去りのハローがオリオン座あたりを泳いでいる

Hong Kong Midnight
ホテルからは出てはいけません
バスの窓に流れていったけばけばしい妖しいネオンの看板しか語れるものがないのです
ケミカルな着色料の缶ジュースを飲むことが
僕らのささやかな冒険だった
夜通し繰り返されたトランプゲーム
もうすっかり気分は大人だった

僕らはそれでもまだ異国人だった

胸に秘めた母国語を少しずつ少しずつ割って食べていく
病みつきになるパスタやチップスやステーキの味付けはもうここにはない
僕らの挑戦は確かめようのない訛りを引きずりあの海岸で全校生徒と記念撮影したフィルムに封じ込めたまま

異国人の僕らには波音だけが共通語だった

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