遡上教育について

Re: 遡上教育について
投稿者:小山の隠居 投稿日:2013年 2月28日(木)10時07分51秒 返信・引用
鳳仙花さんへのお返事です。

ご愛読ありがとうございます。
お尋ねの「遡上教育」は、旧HPに載せていたものです。
因みに旧版には、「解決を迫られる大問題」として、

① 遡上教育
② 環境対応
③ 情操教育
④ 心身一元
⑤ 参画政治
⑥ 国連改革

を掲げていました。
その①をご覧になったのですね。

「遡上教育」は、明治開国以来の無目的知識主体の教育に疑問を感じ、現場応用への遡上、
そのための非言語社会への遡上などの必要性を提言したものでした。
多分、私の実家のある新潟県津南町の過疎化の兆候が、そう言わしめたのだろうと思います。
①の一部を下にコピーしておきました。

2.いまなぜ遡上(そじょう)教育か

飛び出したきり帰ってこない鉄砲玉教育がまかり通る限り、過疎化あるいはその激化は進行する。その是正策の目玉が「遡上教育」だ。ちょうど、都会という大海原に出て成長した鮭が、生まれ故郷の川が忘れがたく遡ってきて産卵するように、故郷を終生の地として生き、それを下支えして可能ならしめる教育が、この遡上教育の骨子となる。

遡上教育は、鉄砲玉教育を是正しようとしたものだが、底流には、言語化した文明へのアンチテーゼとしての非言語世界への"遡上"をも含意する。

こういうことである。言語を駆使して発展した近代文明(=都会)は、言語化の遅れた周辺の伝統社会(=田舎)を席巻し、吸収し、屹立して栄えた。これが文明の発展過程と見なされたが、地球環境の不可逆的な破壊、混沌の度を増す社会、精神病理の多発などの多難に遭遇し、その異常性が認識され始めた。
 これに対抗できる正常な文明はどこにあったか。一言でいえば、言語に大きく支配される前の非言語化段階にあったと想像される。近代文明に入る前の狩猟採集時代の、人間が動物の一員として生きていた時代の社会にあたる。今更そこに戻るわけには行かないが、その段階の文明のあり方を遡って考え直すことが必要不可欠になった、ということである。

学問においても見直しはあった。親鸞(1173-1262)による「非僧非俗」の行き方がそれである。当時の仏教は、いまの学問に相当する。僧としての戒律はすべて破り、言語仏典も捨て、宗教を解体した。かといって、庶民レベルに降りたわけではない。南無阿弥陀仏のフレーズを唱えて入る行に行き着いたようだ。言語はその妨げになると見たのではないか。親鸞のこの行き方は、今日の学問および文明への痛切な反省点になる。

鎌倉時代、親鸞が解体しようとした宗教(=学問)がいつの間にやら息を吹き返し、矛盾を孕む文明をここまで推し進めた。親鸞の悲願が遍く成就していれば、今日の文明もちがった方向を辿っていたかもしれない。そう考えれば、言語を否定し行を説いた親鸞の非僧非俗の行き方は、決定的な意義を持っており、今日、遡上教育という形で再浮上したといえよう。

遡上教育は、鉄砲玉教育を変えるものだが、過疎化防止の切り札だったことを忘れてはならない。つまり教育は、無目的であってはならないのだ。過疎化防止のためにも役立つものでなければならない、ということである。幅広い応用性を想定することである。応用力判定のテストがOECDのPISA(国際学習到達度調査)だった。日本のこの学力は落ち目で、「読解力」に至っては15位に低迷。文科省はじめ教育界は大慌てする。西洋に追いつけ追い越せと、日本の教育界が目指してきたものは、所詮応用力の弱い蛸壺型の基礎学力だったようである。

西洋の侵入を防ぐには、西洋の学問を真似して対抗するのがベストだったが、その選択は、西洋の"攻める"性格を持った学問を取り入れる羽目になった。その甲斐あって(?)戦後の日本は、経済の世界に攻め込む国となって、今日に至る。結果、国内の空洞化、過疎化に一段と拍車をかける。教育はあげて過疎化要因として作用した。

反省がまったくなかったわけではない。が、その反省は、「詰め込み」を「ゆとり」に変えて学力が低下したといった、教育業界の独善的な見方だった。授業時間数によって上がったり下がったりする学力なんぞは、知識量にすぎまい。そんなものは、無目的な当面の受験学力にすぎない。ここには、世の役に立つという視点など感じられない。教育界はもとより社会の指導層も、こんな反省しか浮かばないのが現実なのだ。教育界ほど絶望的な分野はない。日本の未来は視界不良ということになる。

この浮世離れ、手をこまねいていると、国はさびれ、滅ぼすかもしれない。そんなことに加担する教育であってもよいのか。自己目的化した教育ではなく、応用のための教育、そこへの"遡上"が求められる所以である。

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