おもちゃに“性差”は必要なのか?

ランドセルの色の自由化や制服のジェンダーレス化が進むご時世ですが、幼児のおもちゃにも“性差”をなくそうという流れがみられます。

ひと昔前までは、男の子は自動車やロボット、女の子はぬいぐるみや人形という選択がノーマルでしたが、自分の昔を振り返って、男性だけど人形が欲しかったとか、女性だけどクルマで遊びたかったという人も少なくないようです。


NHK教育の「おかあさんといっしょ」でも、男の子、女の子のキャラクターに加えて、“性別がない”キャラクターを登場させるなど、明らかに時代が変わりつつあります。

こんな流れに対して、「“性差”をなくそうとするのは行き過ぎ。男らしさや女らしさは、やはり必要では?」という意見もあります。男性性と女性性が対概念だとするなら、たしかにすべてが中性化してしまったら、そもそも価値観の軸がなくなってしまうという懸念もあるかもしれません。


男の子は、なぜぬいぐるみで遊んだらいけないのでしょうか。女の子は、なぜロボットで戦ってはいけないのでしょうか。まずは、こんなシンプルな疑問に、子どもの目線で丁寧に答えていくことが大切だと思います。

大人になってからの私たちを考えたら、女性がもっともっと社会で活躍し、経済的にも地位を築いていくのは間違いないですし、そのような方向づけを否定する人はあまりいないと思います。

男性についても同じで、家事や育児への参加は法改正もあいまってもっともっと進んでいくでしょうし、ファッションやライフスタイルの多様化は間違いなく加速していくことでしょう。


自動車やロボットが男の子的なアイテムで、ぬいぐるみや人形が女の子的なアイテムだという価値観自体を無理に変える必要はないと思います。スーツを着こなす男性がかっこよくて、華やかにドレスアップした女性が美しいのは、否定すべきことではありません。

問題があるとしたら、人形に興味を持つ男の子、自動車のおもちゃを手に取る女の子の行動を否定したり、抑制したり、疑問を呈したりする、行き過ぎた規範にあるのだと思います。

男の子であるという意識のもとに、ぬいぐるみを可愛がったり、女の子であるという認識を持ちながら、ロボットで遊んだりすることは、子どもとしての自然な好奇心だと認めることが大切でしょう。


なぜなら、私たちの社会は、大人になったら、本来はそれが当たり前の姿であるはずだからです。そう思えないとしたら、私たちの認識の中に何か特殊な力学が働いているからでしょう。

男らしさ、女らしさに意味はあるし、それぞれ違うからこそ価値があるはずですが、男は絶対に男らしく、女は例外なく女らしくという“強制”が働いたとき、~らしさはその特徴を尊重し合うという姿から、見えない“壁”によって分け隔てられてしまう姿へと変貌してしまいます。


あなたが昔、物心ついたときの頃を思い出してみましょう。男の子だから女の子と遊んではいけないとか、女の子だから男の子と話してはいけないと思っていましたか。おそらく、そうではないと思います。

人間は生まれたありのままの心では、男の子と女の子とを無理に分けようとはしません。それは、兄弟姉妹に男の子と女の子がいたなら、昔を振り返って違和感なく思い出すことができるでしょう。


妹がお兄ちゃんと遊ぶ中で自然と男の子に交じって外で活動的に「~ごっこ」をするのは自然ですし、弟がお姉ちゃんが可愛くおめかししているのを見て興味をしめすのも無理からぬことです。

子育てにおいて社会のルールや常識を伝えていくことは大切ですが、異質なことに興味を持つこと自体を否定してしまったのでは、そもそも自分とは異なる文化と向き合う力を培うことが困難になってしまいます。


性別役割分担論にはさまざまな意見や見解がありますが、これからの時代を見据えるとき、「男は仕事、女は家庭」という昭和的な価値観を頑なに固定化したいと考える人は極めて少数派だと思います。

「三つ子の魂百まで」のたとえは、文字通り人生100年時代を迎えた私たちにとってリアルな響きかもしれません。大人になってからの人格形成の基礎が培われる幼少期だからこそ、固定的な価値観を押し付けたり、タブーを刷り込むのではなく、「自分で考え、自分で選ぶ」ための人間力を養っていきたいものです。


男の子が人形を抱いてピンク色に興味を持っても決して驚かず、女の子が自動車のおもちゃで遊んで男の子とわんぱくに駆け回っても決して心配せず、温かい目で見守りながら、彼ら彼女たちがどうしたいのか、ありのままと向き合っていくのが私たち大人の役割だと思います。

ひるがえって、私たち大人はなぜにここまで、男性であること、女性であることにレッテルを張り、むしろお互いの“壁”を高くそびえさせるのでしょうか。もしかしたら、何も知らない子どもの方がはるかに素直で、ありのままの人間らしさを発揮しているのかもしれませんね。

学生時代に初めて時事についてコラムを書き、現在のジェンダー、男らしさ・女らしさ、ファッションなどのテーマについて、キャリア、法律、社会、文化、歴史などの視点から、週一ペースで気軽に執筆しています。キャリコンやライターとしても活動中。よろしければサポートをお願いします。