産休・育休と“学び直し”?
岸田首相は、国会の代表質問に答えて、産休や育休中の人がリスキリング=“学び直し”に取り組むことを支援する表明しました。賃金の上昇のためには、育児休業中の人たちが新たな知識やスキルを得るための“学び直し”が重要だという考えのようです。
今年は、とかく子育て支援の話が飛び交っている国会ですから、このような考えが語られることにはあまり違和感がないかもしれません。でも、ふと立ち止まって、「ちょっと不思議だな?」と思ったのは私だけではないと思います。
産休はともかく育休を取っている人って、具体的にはどんな状況に置かれている人でしょうか。おそらく昔のように子どもの世話を助けてくれるおばあさんも近くにおらず、また保育所に預けられるような状況にもなく、ある程度落ち着いてもさまざまな事情で託児所や保育所を頼ることができない人が多いと思います。
今は夫が育児休業を取得することも推奨されている時代ですが、そうはいってもなかなか母親同然に子育てに注力できる父親の存在はそれほど多くはなく、おそらくほとんどの乳幼児の母親は一刻どころか数十秒も子どもから目を離すことができない状態で子育てに専念していると思います。
もちろん、今はオンラインでたいていのものは学べる時代ですし、テレワークができる会社や職種も、コロナ禍の前よりは相当に増えていると思いますが、そうした技術的・制度的な変化はさておいて、そもそも自力ではまったく何もできない乳幼児を24時間付きっきりで哺育・育児するという行為は、それじたい並大抵のことではないはずです。
“学び直し”は素晴らしいことですし、そうありたいと希望を持つ人はたくさんいると思いますが、ややもするとリアルな現場感が欠けた議論だと思わずにはいられません。子育て、特に子どもがあるい程度の主体性を持てるまでの期間は、そうそう勉強しながら片手間にできるものではなく、文字通り一身をなげうって子どもと向き合っているのです。
ここで私が思ったのは、これだけ国が男性の育休に力を入れている時代のわりには、今回の発言をみてもほとんど育児に携わる“父親”の姿が見えないということです。妻の育休中でも夫が休業が取れる時代になったとはいえ、だからこそ、夫と妻とでは育児に対する期待や役割が異なるのではないかと思います。
そうした具体的な見取り図が見えるかたちであれば、もう少し育休中の“学び直し”にもリアリティを感じることができるのかもしれません。賃上げの掛け声のもとに、単に育休中の人にもっと学べ、もっと頑張れというのでは、子育て支援どころか心が折れてしまう人もいる気がします。
個人的には、いま国が少子化対策のために将来を見据えてやらなければならないことは、必ずしも出産育児一時金の増額や育児休業中のリスキリングなのではなくて、「夫は仕事、妻は家事・育児」という昭和の時代の社会規範に対して、令和の時代にふさわしいリニューアルに向けた確かなメッセージと具体的な啓蒙や対策なのだと思います。
時代はほぼ完全に夫婦ダブルインカム型に移行しているのに、いまだ固定的なジェンダー役割がなかなか払拭できない現実にこそ、じつは経済的な事情とともになかなか子どもをつくれないリアルが見え隠れしている気がしてなりません。国ができることには限界があるとは思いつつ、子育てのことを第一のテーマに切り出すのであれば、この点にしっかり期待したいと思わずにはいられません。
学生時代に初めて時事についてコラムを書き、現在のジェンダー、男らしさ・女らしさ、ファッションなどのテーマについて、キャリア、法律、社会、文化、歴史などの視点から、週一ペースで気軽に執筆しています。キャリコンやライターとしても活動中。よろしければサポートをお願いします。