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他者評価=価値?小説から見る消費社会のコード【『ウォーク・イン・クローゼット』ブックレビュー】

なぜ読んだ?

以前読んだ根本昌夫『小説教室』において、綿矢りさの小説が取り上げられていた。そこで書かれていた、現代社会の性質と絡めた綿矢りさの小説の登場人物分析が面白かった。また、現在の自分の興味(社会学、消費社会論)とも共鳴したため、実際に綿矢りさの小説を読んでみたいと思うようになった。

そんな思いを無意識的に心に秘めたまま、ある日旅行先で訪れた本屋にてこの本に遭遇した。表題作を少し立ち読みし、衣服の観点から「実質的価値<他者評価」テーゼを扱った小説だろうと考え、これは面白そうだと思って購入した。

『小説教室』を読んだときに自分が書いていた読書メモ↓

p202くらいから
綿矢りさの作品と消費社会のコードの話、とても良い。
実質的な価値よりも、周りや社会にどう見られ、どう評価されるかが、価値を決める時代。コードとしての自分を演じる若者ねえ」

基本情報

タイトル:ウォーク・イン・クローゼット
著者:綿矢りさ
出版社:講談社
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以下、ネタバレ注意




感想

全体的に現代社会の若者が抱くモヤッとした違和感を、鋭く言語化していると思った。

他者評価重視から実質的価値重視へと移行していく主人公、と読めそう。國分功一郎『暇と退屈の倫理学』でいう「浪費」、モノの実質的価値を余すことなく享受する方向へと向かっている。

厳密に言えば、主人公は最初から、服に対し他者評価的な価値と実質的価値の両方を認めていた。それらの価値の割合が、前者は小さく、後者は大きくなったと言えよう。

例えば冒頭から、

「純粋に"好き"を一番にして選んでいたころと違い、現在の私のワードローブは"対男用"の洋服しか並んでない」
「どこに着ていくか誰に会うための服かがすでに決まっている」

と、他者評価的な価値を重視する主人公が描かれる。

しかし、休日をまるまる使って洗濯をする主人公の姿からは、「服が好き」という実質的価値(≒自主的な評価による価値)を認め、モノを慈しんでいることがわかる。

そんな主人公は、物語全体を通して様々な人と関わりつつ、見た目と実質のギャップ=他者評価的価値と実質的価値のギャップを考えさせられるストーリーに出会っていく。紀伊さんの見た目と実質、小学生だりあの見た目と実質(これは回想だが)、バンドボーカルの見た目と実質、隆史くんの見た目と実質、だりあの変装の見た目と実質……

そして、澄ちゃんのために実質を変えようとするユーヤや、妊娠がバレる前と後のだりあの見た目の変化も関わってくる。

このようなストーリーを経て、主人公は「自分で洗濯をする」という実質的価値重視行動を少し前向きに捉えられるようになったのではないだろうか。

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最後まで読んでいただきありがとうございます!

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