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【読書感想文】破船

破船(吉村 昭)

35年前に書かれたサバイバル小説。

吉村 昭氏は極限状態の人間心理を描くのがうまい。

他の作品には史実をベースにした「羆嵐」や
高熱隧道」もあるが、個人的に一番リアリズムを感じたのがタイトルの「破船」だ。

昔の貧しかった日本ではよく見られたであろう、沿岸部の寒村を舞台にしている。

交易の要衝からも外れ、さして産業もない漁村では漁や炭焼きをしてそれを隣村で米に換えてもらうしかない。

しかし、この村には時折、『お船さま』が海の向こうからやって来て、村に莫大な富を与えてくれる風習があった。

ーーなぜ他の作品に比べてリアリズムを感じるかと言うと、人間の欲望が正確に書かれているからだ。

もちろん、生存欲や名誉欲も他の作品と共通して描かれている点はあるが、極限状況での私利私欲の描写はアタマを離れないものがある。

ある意味、今も歴史に残るパンデミックの渦中ではある。

家族に危険が及ぶと、人は本性を現す。

善悪の一線とは何か、考えさせられる一冊。

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