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【読書感想文】沈黙

沈黙(遠藤 周作)

54年前に書かれたキリシタン弾圧の歴史小説。

遠藤 周作氏はカトリックの視点から、「深い河」や「」など一貫して神の存在をテーマにしている。

本著はキリシタン弾圧のなか、棄教したという噂がある高名なイエズス会の司祭、フェレイラ司祭のもとをかつての弟子が危険を冒して訪ねて真意を問うというストーリーである。



ところで「穴吊り」という拷問はご存知だろうか。

ーー穴吊りは、この時代最も過酷な拷問と言われた。

その内容は、1メートルほどの穴の中に逆さに吊す、というものであったが、そのやり方は残酷極まりない。

 吊す際、体をぐるぐる巻きにして内蔵が下がらないようにする。すると頭に血が集まるので、こめかみに小さな穴を開け血を抜く、などそう簡単に死なないようにし、さらに穴の中に汚物を入れ、地上で騒がしい音を立て、精神を苛んだ。
(出典「日本キリシタン殉教史」片山弥吉・著)

江戸時代初期の島原の乱が鎮圧されて間もないころ、豊臣秀吉の禁教令を引き継いで、徳川幕府ば追放、拷問、死刑を含めた迫害を行なっていた。

役人たちは上司にキリシタンを「転ばせる」ように命じられ、信者たちを絶望の淵に立たせて神の存在を問わせた。

本作では人間の弱さ、神との対話がテーマになっている。

しかし、自分はキリシタンと対面している役人たちのメンタリティが心に残った。

生まれたばかりの、自分では何もできない、ぷくぷくした身長五十センチくらいの赤ん坊。

かわいい盛りの三歳児。

友達と原っぱを駆け回っていた十歳の少年。

父の漁や畑を手伝う十五歳。

そんな子どもが、何年かたてば、平気で子供に熱湯をかけて拷問したり、火で炙ったり、家族を穴吊りにする。

そしてキリシタンが棄教すれば、「転んだ!転んだ!」と囃し立てる。

みんな最初はかわいい赤ちゃんだったのだ。

どうして死ぬまで拷問する側と、される側が出来たのか。

同じことは今も世界中で起きているが、人間の心の怪物について考えさせられる一冊。

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