⓪はじめに

バンクーバーのスラム街で暮らした1年は私にとってかけがえのないものになっていた。

その1年は私の確固たるアイデンティティとなっていたし、そのおかげで私は何者にもなれるほどの生きる力と実感を手に入れられたのだ。

人によっては大した経験ではないかもしれないが、少なくとも私にとっては人生での大きな成長点であった。

私が見た景色とストーリーを心の中に留めて置くのは、少しもったいないような気がした。

私の残りの人生のためにも、今記憶していることを、せめて文章にまとめておこうと思い、ここに書き記す。

あの1年で得たものを忘れないように。

この世界は自分の身体を使った壮大な人生ゲームである。

その身体をいかに上手く操り、めげることなく前へと進めるか。

毎日が過酷でも、これがゲームと気付いていれば前へと進む力は衰えないはずである。

もし、ドラクエやマリオで難しいステージがあったとして、それが原因で絶望の淵に立つ人間は少ないと思う。

ただ、実際に目の前で連続的に起こる失敗や不幸はあなたを絶望へと追いやる。

しかし、目の前の現実があまりにも現実離れしすぎていると逆に、それがゲームであることを思い出すことがある。

これは、私が目の前で見た現実の現実離れした話である。

※作中の名称等は実際の人物・団体とは一切関係ありません。また、特定回避のためにフィクションを織り交ぜていますので、ご了承ください。