カンセコ・サッカーの謎を解け
映画は〝人間〟を描かなければならない。映画は社会を〝批評〟をしなければならない。それが義務であり、役割だからだ。それ以外の映画は見る価値はない……。フッ、笑わせるな。そんなもん本当に面白いのか? 映画は他人を見下す道具ではない。
note空想映画劇場 ゴールデン・フェイク ただいま開場いたします。
〇異色のドキュメンタリー
先日惜しくも逝去されたポルトガルの女子サッカー選手、リサ・カンセコ。彼女はゲーム狂で有名で、度を越した熱中はしばし本職に影響を与えた。
W杯開催期間中、レギュラーメンバーにも関わらず、徹夜でプレイに興じ、公衆の面前で監督に説教された件を覚えている人も多いだろう。
※だがその大会で彼女は10得点を上げ、得点王に輝いた。ポルトガルも3位決定戦を勝ち上がり、ブロンズホルダーとなった。それでもゲームはやめなかったという。
そんな愛すべき? 彼女が監修したゲームソフトが「カンセコ・サッカー」である。
この映画はその「カンセコ・サッカー」に魅せられ、時間と金と健康を捧げた者たちのインタビューを基にしたドキュメンタリーである。果たしてコイツをクリアできるのか?
〇実はクソゲー?
「カンセコ・サッカー」はその名の通り、サッカーゲームである。自分が操るクラブ、またはナショナルチームを選び、各大会を勝ち進むオーソドックスなスポーツゲーム。リサも積極的に雑誌などの宣伝活動に参加し、ゲームに対する熱い思いをまっすぐに語ったため、サッカーファン・ゲームファンの期待値は自然と高くなった。
だが、実際発売されると、このゲームの評価は恐ろしく低いものとなった。最新鋭のPSXBOX・7にも関わらず、グラフィックは20世紀のファ〇コン程度のドット絵。操作性も悪く、ゲームを楽しむどころか、製作者に殺意を抱かせるほど。
これはリサの意向らしい。彼女はレトロゲームマニアで特に20世紀に発売されたゲーム機(TVゲームの黎明期)を大いに愛している。当時の雰囲気やゲーム性の再現をみんなに体験してほしいからだそうだ。この手の企画にありがちな名前を貸しただけでなく、本当に監修したらしい。本当に。
〇クソゲーの向こう側
しかし、難儀なこのゲームには秘密があった。
各ゲームモードをクリアすると、新たなゲームが出現するのだ。まず現れるのはストーリーモード。ゲーム監修の彼女、リサ・カンセコのサッカー人生を描いたアドベンチャーパートがモードに加わる。内容はいたってフツー。サッカー大好き少女が、努力してプロの選手になって活躍した。内容はいたってフツー。ただそれだけ。よくある「がんばりました。報われました。よかったですね」的なお話は食傷気味で、賞味期限切れの料理に過ぎないだろう。しかし、つまらんこのモードは、また他のモードの出現条件のフラグの一つなのだ。
ある条件を満たし、前述のストーリーモードをクリアすると、また他のストーリーモードが出現する。ストーリーモードとはいっても、そこにはとあるURLが記載されているだけ。だが、そのURLが問題なのだ。
〇カンセコ・サッカーの謎
URLはクラウドサーバーに繋がり、とある動画ファイルにアクセスできる。
数字が規則的に羅列されたノート(後に帳簿と判明する)、薬物を精製しているように見える動画、一人の人間を複数の人間が暴行している様子……etc。共通しているのは、裏社会や犯罪の匂いで、サッカーとは全く関連がない点。
画像は荒いものが多く、なにより真偽は不明だ。ゲーム内の演出と受け止める方が自然であろうが、なぜ、こんな事をする必要があったのか? そして予想外の事態が起きる。
〇虐待された児童の保護
このゲームをクリアした者の一人、システムエンジニアのジェフリー・ラージ氏(32)は語る。
「文句言いながら遊んでいたんですよ。絵も荒いし、操作性も悪い。大人じゃなかったら、大暴れしていました(笑)。例のクリア後に出てくるアレも単なるオマケ映像かと思ったんです、でも……あれこの家どこかで見たことがある……」
動画に映っている一軒家には見覚えがあった。向かいの家じゃないか。門灯が割れたままになっているから間違いない。いつも出勤前に見ているから。
次の動画は衝撃的なものだった。
小学生ぐらいの子供が大人に殴られている動画だ。こぶしを固めて右フック。明らかに〝しつけ〟の領域を超え、暴力の類だ。そういえば、夜中に帰宅したとき、なにやら怒鳴り声が聞こえてきたことがあった。……あの時気付いていれば……、いやまだ遅くない。念のためラージ氏は警察や児相に通報することにした。無論、ゲームの事は伏せておいた。
数日後、件の両親は逮捕され、児童は保護された。保護された女の子は、心身ともに治療を受けながら、前向きに人生を模索していると聞いた。
「そこからですよ。僕がこのゲームにはまったのは」
ラージ氏は仕事を辞め、「カンセコ・サッカー」の研究に生涯を費やすことに決めた。
〇もしかして、本物?
SNSで同志を募り、「カンセコ・サッカー」の〝裏の顔〟を調査したところ、犯罪性の高い動画が何種類も確認されている。正確な本数や動画の種類は把握されていない。これはゲームをクリアした時の条件が関連しているらしい。ある人には見える動画もある人には見えない。特殊な条件下で起きる〝オマケ映像〟は裏技の類なのだ。
このゲームが何の目的で、非効率でまどろっこしいやり方で動画を〝公開〟するのか?
開発元のミディアム社はすでに倒産し、開発者も行方不明だ。リサのように故人となった者もいる。真相を知るべき術はなきに等しく、謎が解明されるのは非常に厳しい状況だ。
ただラージ氏をはじめ、「カンセコ・サッカー」の〝愛好者〟は確信している。これは本物で、真実であると。
※リサの死因は虚血性心疾患によるもの。事件性は低いと言われている
〇カルトへの道?
ラージ氏は仲間を集め、「カンセコ・サッカー」の動画を合法的に役立たせる方法を模索している。
動画の信ぴょう性を高めるために、物的証拠を集め、最寄りの行政機関に提出するためだ。そのため、「カンセコ・サッカー」の解析を急ぎ、全動画を把握しようとしているが、作業は難航している。
そしてラージ氏はインタビュー内でこう懸念している。
「仲間の内、何人かは離れてしまった。それはいい。彼らにも考え方があるからね。ただその中には『あれは神からのメッセージだ。すべて正しい。証拠なんかいらない。神は奴らに天中を加えよ、と言っているかも』と主張するヤツがいたんだ。それに同調するヤツも多かった。僕は心配だよ。僕らの目的はただ「カンセコ・サッカー」の謎を解いて世の中の役に立ちたいだけなんだよ。決してカルト教団を目指しているわけではないんだ」
力なく笑うラージ氏のインタビューで映画は終わる。
彼の望みが叶えられる日は来るのだろうか。
〇ご注意を
尚、このゲームソフトは、現在定価の倍以上の値で取引されている。制作会社の倒産や配信もされていないことが、その原因である。手に入れることはお勧めしない。本編は本当につまらないし、実りが少ないからだ。
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