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【短編】 おしりビーム

 昔、おしりは、今のように二つに割れてはいませんでした。
 人類研究の分野では、とても有名な話です。
「そんな話はじめて聞いたし、どうでもいいって言えばどうでもいいよね」
 ですが、昔はおしりの割れ目がなくてただのボールみたいだったなんて、すごく変な話でしょ?
「それはそうね」
 古代やそれ以前の絵には、横向きか前向きの人物像しか描かれていないので、おしりの状態までは確認することができませんでした。
 では、なぜおしりが割れていないことが分かったのかというと、それは昔の人が、体からビームを出せたことと関係しています。
「ああ、それなら学校で習ったよ」
 そうです。数千年前の人間はビームを出せたのに、現在の人間はビームを出すことができません。
 ビームは一般的に、相手に自分の気持ちを伝えたり、物を温めたりすることに使われましたが、強力なビームは物を破壊したり、人を殺すこともできました。
「ビームの強さで、王様になれたり、戦争の勝ち負けが決まったりしたのよね。でも、おしりとは何の関係があるの?」
 実は、古代人のビームは、主におしりから出ていたことが古い文献でも確認されており、おしりを突き出しながら気持ちを集中させることでビームを出していたようです。
 しかし二千年前あたりから、ビームを出すたびにおしりが二つに割れていく現象が発生したと考えられています。
「ふーん」
 千年ほど前の文献には、おしりが割れるごとにビームの出力も弱まり、次第におしりが完全に割れて、ビームを出す人間もいなくなったとの記述が見られます。
「じゃあなんで、今生きてるわたしのおしりからはビームが出るの? おしりも二つに割れてるのに」
 その理由は不明ですが、今分かっているのは、姫様の最大ビーム出力は、地球上の核兵器を合計したものよりずっと強力だということです。
「そういう、圧倒的な力で世界を支配するっていうの、なんか好きじゃないな」
 ですが、何もない我が国が生き残るには、姫様のビームに頼るしかありません。
「それは、政治の責任でしょ」
 まあ、それはそうなのですが、すでに姫様のおしりビームの力は世界中の脅威になっておりまして、世界のパワーバランスは姫様によって保たれていると言っても過言ではなく。
「だったらもう姫やめる」
 バランスが崩れて、世界大戦になります。
「世界が平和でも、戦争でも、わたしが普通の女の子でいられない世界に意味はないよ」

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