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片桐チハル
2016年3月31日 21:28
〝朝焼けの鮮やかなオレンジが窓から鬱陶しい光を差し込んでいて気力を奪う。もうすべてが億劫だった。〟一話目はこちらから二話目はこちらから三話目はこちらから四話目はこちらから五話目はこちらからこれで終わり。 目を覚ますとわたしはいつものように、自室にひとりきりで横たわっていた。ベッドにあの男の姿はない。開け放った窓から差し込む日差しからは、甘い匂いは漂ってこない。朝刊を配って回るバ
2016年3月31日 21:01
〝わたしは彼の帰る場所になりたかった。〟一話目はこちらから二話目はこちらから三話目はこちらから四話目はこちらから 耳をつんざくような不快な声をあげてカラスが叫び出し、まもなく大粒の雨が突風を伴いながら急騰した水のような激しい音を立てて窓を打ち付けはじめた。雨。果たして、これは本当に雨だろうか。 窓の外から差し込んできたオレンジ色の光――あぁ、これはかおりだまだ。幼いころ、すべてな
2016年3月31日 20:50
〝さよなら、さよならやさしいひと。律儀にお別れを言いに来た真面目なひと。薬指に光る呪いを隠そうともしない、不器用で卑怯な男。〟一話目はこちらから二話目はこちらから三話目はこちらから 土曜日の明け方、公衆電話からの着信があった。彼だろうか。しかしそうであるならば、土曜の明け方に着信があるというのは妙だった――彼からの連絡はきまって平日の午後七時頃であったのに。一度目の着信は、発信元が彼で
2016年3月31日 20:38
〝ていねいな手紙が、受話器の向こうから響くやさしい声にかたちを変えたころ、彼はわたしのはじめての恋人となった。〟一話目はこちらから二話目はこちらから 会うたびに必ずおくりものをくれるひとだった。 背筋のしゃんと伸びた姿勢、どこか寂しげでありながらも凛とした眼差し。分け隔てなく親切で、紡ぐ言葉ひとつにも知性を滲ませるのに、嫌味なところがひとつもない――彼はわたしのはじめての恋人だった。
2016年3月31日 19:57
〝ひとりで生きていくのは容易い。けれど誰かになぞられないと、自分がいったい誰なのかさえもわからなくなる。〟一話目はこちらから。「じゃあ、これ。またね」「ありがとう、また」 地下鉄へと続く階段をくだる彼の背中を、もう何度見送ったことだろう。彼との関係がはじまって、もうじき一年が経つ。週に一度、気まぐれに響く呼び出しを受けて繁華街まで出向き、安いホテルで体を重ねるだけの関係。彼との関係は
2016年3月31日 12:56
〝大切なものは大事にしまっておかなくちゃ。〟大切に思えば思うほど失くしてしまう少女は、やがてたからものを体のなかにしまいこむようになる――。以前どこかに投稿しようとしてやめたやつを供養。箸にも棒にもかからなさそうな駄文なので、お暇な方どうぞ。何度かに分けて更新します。全部で二万文字弱です。(1)「会うたびにひとつ、なにかおくりものをちょうだいね」 最初に交わした約束を、律儀に守