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ピアノじまい

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#実家片付け

祭りの夜の報せ(ピアノじまい⑪)

祭りの夜の報せ(ピアノじまい⑪)

その晩は市内のホテルに一泊することにしていた。
浴衣を着た若者たちが行き交っているのを見て、その日が、馴染み深い街の神社のお祭りの日だったと気づいた。
母が亡くなる前の日も、同じように賑わう若者たちを眺めながら歩いたなと思い出しながら、弟家族との食事に向かった。

久しぶりに会う弟家族。変わらずみんな元気で良かった。
暫くした頃、弟に電話が入った。
音楽教室の方からだった。
見に来てくださったご家

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対面と試弾と空気感(ピアノじまい⑩)

私は実家の隣県に住んでいる。
実家に残したままの自分の荷物、父母の遺品、家族の写真などを引き取りに、今月中に一度実家を訪れなければいけなかった。
夫の予定とも合わせて決めたその日が、ピアノ引き取り希望の方が見に来られる日と重なり、そして母の命日とも重なり、なんとなく特別なものを感じていた。

荷物を積み込むため車で行く予定を立てていたのだが、当日、急遽夫が仕事で都合が悪くなったため、私は先に新幹線

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第2回目査定(ピアノじまい⑨)

第2回目査定(ピアノじまい⑨)

その日がやってきた。
約束の時間から30分が経った頃、弟から連絡があった。

「終わったよ。なんか思ってたより使えそうだったみたい。」

ああ、よかった!

音が出るか確かめて、内部も細かく確認。外側も磨けばきれいになりますね、とのこと。
フェルトを替えなきゃならないところがあり、随分昔に廃業してるピアノメーカーだったから、部品が調達できるか、その音楽教室の先生が良く知っている調律師さんに確認して

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しかし粛々と(ピアノじまい⑧)

しかし粛々と(ピアノじまい⑧)

お世話になっているピアニストさんにご紹介いただいた、音楽教室の先生。
先日電話で話した時には結構良い感触だったけれど、あれから少し時間が経ってしまったし、変わられてなければ良いなと思いながら、メールを送った。

ぜひ見させてくださいとのお返事。
前と同じ感触でほっとした。

電話で話しただけだったけれど、なんとなく、この方に見てもらって、やっぱり使うのは無理そうだと判断されたなら、きっぱりと気持ち

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謎だったメーカー名(ピアノじまい③)

謎だったメーカー名(ピアノじまい③)

実家を空にしなければならない期限が意外と早く迫っているとなり、急いでピアノの処分方法を考えなければならなくなった。

まずは知り合いの調律師さんに尋ねてみるか。

と、その前に。
よく考えたら、うちのピアノの素性を、私は殆ど知らない。
分かっているのは、買ってもらった当初で確か15〜20年経っていたということくらい。

どこで買ったものなのかも、いくらだったのかも知らない。

ピアノの蓋を開けて目

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ピアノじまい①

ピアノじまい①

実家の売却が決まりそうである。
18年前に父が亡くなって以来、母と弟の二人暮らし、母と弟家族の同居、そこに出戻りの私がしばらく加わり、やがてみんな出てゆき、最後は母が一人で住んでいた家。

母が亡くなって3年。
どうしても捨てられないものを一部屋にまとめていたが
そこもいよいよ空にしなければならなくなった。

私にとっての大物はピアノである。
確か25歳のときだったか、実家を出てからは
めっきり弾

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