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行きつけのお店

みなさんは、行きつけのお店がありますか?

自分の顔を覚えていて、言わなくても注文したものを出してくれる、居心地の良いお店。
ホームだな、と感じる雰囲気。
脱力した時も受け止めてもらえそうな、温かさ。

それは、喫茶店かもしれないし、居酒屋かもしれない。
スナックやバーの人もいるでしょう。
共通点は、「特別扱いしてくれる」空間です。

20代のころ、週に3、4回通っていた喫茶店があります。
丁寧に淹れたコーヒーと、吟味されたカップ。手作りのレアチーズケーキ。
一人の時もあれば、二人の場合もありました。

目立たない場所にあるので、週末以外はあまりお客さんがいません。常連客ばかりですから、座る席もほぼ決まっています。

私は、カウンターの右端でした。
バッグを隣の席において、コーヒーを注文します。

グレーの制服を着たマスターが、たくさん並んでいる棚から、迷いのない右手で取り出しました。
アラビア模様の入った真っ白いソーサーに、濃い藍色のカップです。

コーヒーを淹れるときの無駄のない動作。
約束された味を待つ時間は、かぐわしさと一緒に流れていきます。

作り置きしてある液体を注ぐだけでは味わえない、ぜいたく。
会社帰りに、途中下車をしてまで寄るのは、それを味わうためでした。

その頃、私は一人暮らしをしていたのです。
会社でまとった空気を、そのまま持ち込みたくなかった。

自炊していたので、食事をする気はありません。
でも、ワンクッションおいてからでないと、帰る気になれない。
お酒を飲む方の気持ちがよく分かります。

コーヒーと一緒に、レアチーズケーキを食べるのが楽しみでした。

力強いコーヒーに負けない、自己主張をしているケーキ。
その上に乗っている、甘さを抑えた酸味の強いブルーベリージャムが、絶品でした。

気持ちをリセットして、笑顔を浮かべられるように戻してくれる、サプリメントのようなアイテムです。

それは、単に美味しいから、良い材料を使っているからだけではなく、お店の持つ雰囲気と、常連であることの特別感に依るところが大きかった。

何年も前に閉店しましたが、時々あのケーキが食べたくなります。

今後、行きつけになるようなお店と縁が結べたら、○○の為という目的を持たずに、ただその味を楽しみたい。

そう思っています。


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