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ドリップコーヒー

私は、コーヒーが大好きです。

身体の奥底まで染みこむような、香り。
コーヒー色と称される、深い褐色。
特徴のある、料理にはない苦み。

初めて飲んだのは、中学生の時。
インスタントコーヒーでした。
大きなビンに入っていて、横にクリープと砂糖が並んでいたのを思い出します。

母が淹れてくれたコーヒーは、甘くて苦くて色が薄かった。
クリープを入れたせいでしょう。

美味しいと聞いていたけれど、そうでもないというのが正直な感想でした。

あるとき、コーヒー好きの友人が喫茶店に連れて行ってくれました。
当時20代前半だった私には、一人で入りにくい、落ち着いた雰囲気のお店です。

マスターに紹介され、とりあえずブレンドコーヒーを注文しました。
そこで、初めて本格的なコーヒーを味わったのです。

ミルで豆を挽く音。
使い込まれて年季の入ったコーヒードリッパーと、コーヒーカップにお湯を注ぎ、温めます。

ドリッパーにペーパーフィルターを密着させたあと、持ち上げて左右に揺らしました。
粉の表面を平らにするためです。

ケトル(銀色で、注ぎ口が細く長いもの)で熱湯を4回に分けてゆっくり注ぎました。
芳ばしい香りが漂ってきます。
目を閉じて、逃がさないようにその香りを吸い込みました。

じんわりと、身体の内部に広がっていくリラックス感。
意識せずに、深呼吸をしていました。

「お待たせしました。どうぞ」

濃褐色のコーヒーが、目の前におかれました。
マスターのカップを扱う丁寧な所作に、見とれたことを覚えています。

それが、私と「ドリップコーヒー」との出会いでした。

それまでは、インスタントコーヒーを家で飲み、たまに外食してもコーヒーメーカーで作り置きしたものばかりだったのです。

年上の友人が、美味しいからと言って連れて行ってくれた珈琲屋さんは、まさに専門店でした。

ミルクや砂糖を入れずに飲んだコーヒーは、それなしで過ごしてきた生活とは違う世界を見せてくれたような気がしたのです。

その日からコーヒー好きに変わりました。
今では、欠かせないものになっています。

コーヒーが創り出す、香りと一緒に苦みを楽しむリラックスした時間。

それを教えてくれた友人に、感謝しています。

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