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3年後、また来ます-西表島-

大好きな西表島へ、ワーケーション・勤続休暇・有給を活用して1か月滞在している間に出会った見晴らし最高のカフェがある。
でも、現在は休業中。


遊ぶ際に拠点としやすい西表島の2つの港。

比較的お店や宿泊施設等も多い上原と日本最西端バス停や信号機が存在し、よりのどかな大原。

わたしは、2021年夏にはじめて西表島に来た時から大原港から徒歩3分、島や自然のことを知り尽くしたオーナーが営む民宿にお世話になり、島独自の様々な景色・食べ物・動物等を教えていただき島を大好きになるきっかけとなった。

今回の滞在もそこを拠点としている。

1か月滞在する中で、こだわりたい1つに本を読む場所があった。
いかにも想像するような、目の前の海を眺めながら風を感じて本を読める空間は、過去滞在含めて見つけられていなかったし、今回の滞在で読みたい本を思う存分読む豊かさをじっくりと味わいたかったから。

滞在してる大原地区には、太陽が照っている日に大きく広がった木陰が心地ようさそうなシンボル的な木が悠然と立つ芝生広場がある。
そんな青空読書もよいのだけど、それ以外の屋根がある場所を求めていた。

そんな時ちょうど拠点の民宿で働く、読書が趣味のさなえさんからおすすめしてもらった場所が上原にある見晴らし最高のカフェ『なかゆくい』。


今読んでいる本を読了し、新しい本を新しい場所で読みたい衝動もあいまって早速翌日行ってみることに。


大原からそのカフェ迄は、約30Km。
西表島に来て、ペーパーを卒業した原付バイクで向かう。右手にはグラデーションのエメラルドグリーンや稲穂がゆれる黄緑、左手にはふかふかで分厚い深緑を感じなら絶景続きの一本道をひたすら走る。

1時間後、カフェへ到着。


1Fが駐車場スペースの2Fカフェへ。
白い階段を上っていきドアを開けた瞬間、風が向こう側からやってきて、目線のずっと先に広がる広い空間に海があることを感覚的に一瞬で理解できる、なんとも開放的な場所。

店内は上ってきた階段と同じ白を基調とし、薄い木目をアクセントにやわらかい雰囲気で屋内の広さと同じ位のテラス席がある。そこからは、東シナ海の水平線が広がる見晴らしが満点なカフェだった。


「いらっしゃいませー」

と、カウンターキッチンから声をかけてくれた女性マスターは、かすみピンクのTシャツがいかにも島の方というイメージでハスキー声が印象的。


店内には誰もいなかったので、贅沢にどの席でもOKな状態だったけど、
その日、本を読むにはテラス席は少し風が強めだったため屋内席の窓側に決めた。屋内といっても、テラス席との仕切りはほぼないため、海側から吹いてくるやわらかい風と店内の涼しさを味わえる一石二鳥な席だった。


メニューは、珈琲とケーキ各種。シンプルで迷わなくてよい。
メニュー表の一番最初に書いてある温かい珈琲とチーズケーキをオーダー。


程なくして持ってきていただいた、珈琲とチーズケーキは共においしく、特にチーズケーキは私好みのニューヨークチーズケーキで固さや香りもちょうどよかった。


おいしい飲食と心地よい風に包まれながら、読書をする。
なんと、気持ちがよくて幸せな時間なのか。
時折かみしめながら珈琲を飲み、ページを進めていく。

すると、入口のドアが開き女性2人組が入店した。


どうやら常連らしく、女性マスターが「久しぶり」と声をかけ入口の席に案内してそのまま話が弾む。

お子さんの話題を話す2人組ママは、女性マスターよりも若干後輩的な立ち位置で、時折女性マスターに先輩ママとして助言を仰ぐように質問したり、話を振ったりしている。


「いつ行かれるんですか?」

「今月○○日に、島から千葉の■■へ引っ越すよ。」


そんな会話が聞こえてきた。
どうやら女性マスターは島から離れ千葉へ引っ越すらしい...


突然の話題に、少しはっとしながらも本を読み進めていた。



しばらくすると、また入口のドアが開き

「こんにちはー」と若い夫婦が訪れた。夫婦は店内には入らず、入口付近で女性マスターとお話し、近々引っ越されるマスターへの労いや感謝の気持ちをお伝えに来たらしい。

「ありがとうねー」

ほんの数分でドアは閉まり、夫婦は帰っていった。


その後、女性2人組はお会計のやり取りをしながら、女性マスターが引っ越される千葉の■■の買い物事情やテーマパークの話でまた盛り上がり、
「がんばってねー」「また帰ってきたら通わせてね」等と励ましや再開の言葉を交わしながら店を後にした。


本を読みながら、一連の流れを横で見聞きしてしまっていたわたしは
せっかく素晴らしいお店を見つけ、滞在中行きつけお店決定!
と数十分前に思ったのに、急転直下。
その恩恵を預かれるのはあと数回かもしれないと、なんだかとても残念な気持ちになっていた。


すると、入口のドアが開き女性マスターと同年代な雰囲気の常連らしき女性1名が

「おつかれさま」

と言いながら、いつもの席に座るように私の隣席へ。

「温かい珈琲ね」と即座に注文し、いつも繰り広げされているかのようにスムーズに世間話が弾む。


話題は、住んでいる地区の女性会で女性マスターが引っ越してしまうとまとめ役がいなくなり心配だという話や、明後日に開かれる地区小学校の卒業式で、○○ちゃんが卒業するねーという話等々。

女性マスターがいなくなることでの寂しさをやわらかく話の中に織り交ぜながら、テンポよく会話が進んでいく。


その中で、

女性マスターが引っ越される理由は、お子さんの進学で在学中の3年間一緒に住むためであること。
また、お子さんが無事卒業された3年後は島に戻り、このカフェの営業を再開すること。
つまり、その間の3年間このカフェを休業すること。

が、わかった。


常連女性との会話は、その方の旦那さんの病気の話へと変わった。


闘病が続く旦那さんは、一時的に昨日退院したとのことで、島には診療所しかないため石垣島や那覇の病院を過去行ったり来たりしているらしい。


「ガンでねー転移してるのよ。今回も抗がん剤で石垣にいってきたの。
家に帰ってきたら、すきなフルーツばっかり食べたいって言って。」


「んーそうなの。うちの母もそうだったよ。すきな食べ物ばっかり食べたいって言って、それを作ったり買ってきたりするの、大変じゃないー?」


常連女性の明るいテンションのまま、この話が展開されていた。

まるで旦那さんの小言を面白おかしく言い合うような雰囲気で。

女性マスターも常連女性の旦那さんの病気の点に深堀りはせず、食事という点からご自身も経験された共感からエールを送っているような、とても大人な会話を横に聞いていた。


「ありがとね。  
ごちそうさま!あっちでも元気でやってね。
帰ってくるの、待ってるよー」

常連女性は、そんな言葉をかけてさっと帰っていった。



カフェに来て約2時間、本を数十ページ読み進め3組のやり取りを横で感じながら
この心地よいカフェで今まではぐくまれてきた人間模様や女性マスターとのご縁がぎゅっと凝縮されたものを感じさせてもらった不思議な感覚になった。


一方で豊かで幸せな気分も感じながら、お会計をお願いする。


「ごちそうさまでした」


「ありがとうございます。1500円です。」


「あ、少し聞こえてしまったのですが、近々こちらのお店閉店されるんですかね。」

「そうなんです、明日から休業するんですよ。3年後に戻ってきて再会する予定です。」

「あ、明日からなんですね。
わたしが短期ですが島にいて、とてもすてきなお店だなーと思ったので、ちょっと残念ですが...」

「あら、ありがとうございます。短期...3年後はいないですよね?笑」

「あ、、はい。笑
ごちそうさまです、おいしかったです。

ありがとうございました。」


「ありがとう。」


休業するその日は、明日だった。

島で本を読むお店、それ以上になんだか幸せな気分になれたカフェに休業前日というタイミングで出会えたこと。
なんて幸運だったのだろうと思いながら、


“3年後また来ます”



心の中で宣言して、見晴らし最高のカフェを後にした。


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