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禁断の研究【短編小説#29】

「何度やってもだめだ。あと少しなのに、何故なんだ。まだ僕にはできないのか。」少年は頭を掻きむしりました。

幼少の頃から神童と呼ばれた少年は、5歳で博士号を取得し、10歳になった今、医学者としてある研究をしています。それは、一度死んだ人間を甦らせる、禁じられた研究でした。

亡くなったおじいちゃんともう一度話をしたいという、純粋無垢な想いがきっかけで研究を始めましたが、うまくは進みません。

死んだ人間が息を吹き返し、話をすることはできるのです。しかし、生き返った人間は、生前の人格とは異なっていました。

生き返らせて、人格を確認し、生前と異なっていれば殺し、また生き返らせて、人格を確認し、生前と異なっていればまた殺し、を何度も繰り返していました。

不思議なことに、生き返らせる度に毎回違う人格で人は蘇るのです。

「器は一緒なのに、中身が異なる。どうしてなんだ。」少年がそう嘆いた時に、殺したはずの死体が返事をしました。

「馬鹿だね。発想が逆だよ。君は何を生き返らせたいんだい。完全に大事なことを見落としてるね。あとさ、殺すならちゃんと殺してくれ。まだ生きてるよ。」

助言を受けて少年ははっとひらめきました。しゃべった半殺しの死体をきちんと始末し、今度は人の体を使わず、壊れたラジオを修理しました。そうすると、器はラジオですが、中身に亡くなったおじいちゃんを甦らせることに成功したのです。

「おじいちゃん、僕だよ。ようやく甦らせることができたよ。もう一度話せて嬉しいよ。」

しかし、おじいちゃんは言いました。

「生き返えらせてくれるのは有り難いが、元の体で生き返りたいよ。」

わがままな依頼に嫌気がさし、少年はラジオを叩き壊しました。
死んだ人間が元通りに生き返ることはないと理解した少年は、それ以来、研究をすることを辞めました。

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