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たまには分かりやすく

分かりやすい、のかどうかは正直分かりませんが。事態が煮詰まって来ている印象がありますので。

僕の立場は反スペクタクルですが、そのために取る陰謀論容認、フェイクニュース容認の姿勢が容易に理解されるとは思っていません。まあそこはポジショントークと思っていただいて結構です。いま起こっているのは、スペクタクルの大本営発表、例えばテレビやマスコミ、あるいは映画界など、イメージを使って人々を動かすような権力と、そこに対する不信の構図です。

インターネットの黎明期、人は様々な理想を語っていました。これで声なき人が声を上げられる、中心のないコミュニティが築ける、直接民主制だ、などなど。しかし蓋を開けてみればインターネット空間には、誹謗中傷、フェイクニュース、詐欺や犯罪が溢れ、理想論は影を潜めてしまいました。しかしこれは即座に理想論が間違っていたということにはなりません。人々の愚かさや悪徳はずっと存在していて、それがあからさまになったことに理想論者が耐えられなくなっただけで、悪は存在するのですから世界を語るためには直視するしかありません。

ここでひとつの問いが生まれます。僕たちは本当に悪を直視しなければならないのか? 何もわざわざ人々の闇の面に取り巻かれて暮らすこともないだろう。メディアによる大本営発表は確かに検閲されたお花畑かも知れないが、逆に検閲してくれた方が安心するよ、悪は現実世界で十分足りてるからね。もっともな話だと思います。ここでは仮に「生活主義」としましょう。自分の生活に注意が向いていて、テレビはエンターテイメントの装置に過ぎず、国際情勢のニュースが印象操作や情報操作を受けていたとしてもさして気にならない。オールドメディア全盛期にはこうした享受者が多かったと思います。

一方、人々はインターネット空間で確実に覚醒していました。多角的な情報を得て、メディアの大本営発表に対する不信を募らせて行きました。こうした不信感を積極的に利用したのがトランプ政権です。トランプ政権は富豪仲間だというだけで、いわゆるエスタブリッシュメントやエリート層とは違う、なんならならず者集団だと言ってもいい、しかし結果としてスペクタクル的な権力と対立することになりました。

トランプは陰謀論でも何でも、とりあえず利用できるものはなんでも利用してエスタブリッシュメントを攻撃します。それを痛快だと感じて応援する人や、何かを変えてくれると期待を寄せる人もいるでしょう。しかし思い出していただきたいのは、現実世界での社会変革を掲げるいわゆる左派は反トランプに多いという点です。トランプ支持層の発言は基本的に保守的です。一体トランプは実際のところ何と戦っているのか。ここにディープステイトなどの陰謀論が入り込む余地があります。

これが従来の陰謀論と五十歩百歩のものであれば、自然に消滅するかカルト的なものとなって行くでしょう。しかしややこしいことにトランプの見境の無い攻撃に危機感を感じたスペクタクル的な権力が、トランプに猛攻撃を仕掛けて自らの姿を晒してしまったのです。スペクタクル的な権力は現実の権力構造と重ね合わせることが難しい。それは「ズレて」います。例えばお金持ちでも、スペクタクル的な権力と密接な関係にある人とほとんど関係ない人がいます。大企業でも、消費者に直接商品を売るような企業はスペクタクル的な権力の舵が効いていて、テレビコマーシャルに多くの人が影響される状態が好ましいでしょう。一方消費者に直接目に触れないような業種では、テレビで宣伝することより政治家へのロビー活動が重要だということもあるかも知れません。

トランプはスペクタクルに直接攻撃を仕掛けているわけではありません。すでにインターネットでマスコミへの不信感を募らせていた人々はかなりの割合に上っていました。むしろトランプはスペクタクルに引導を渡す者としての役割を期待されている状況です。スペクタクル側の抵抗は必死です。

今回の選挙を見てみましょう。メディアは民主党圧倒的に有利の印象操作をして世論誘導しようとしました。次にトランプが大統領の椅子にしがみついて負けを認めたくなくてごねていると繰り返しました。今は幕引き段階で、これはごく普通のプロセスで行われた選挙で不正がないのはもちろん世論調査も実はたいして間違っていなかったと言って「無かった」ことにしようとしています。

トランプ大統領は本当に税務調査や逮捕が怖くて「ごねて」いるだけかも知れませんが、そうこうしているうちにマスメディアへの不信感は増すばかりです。マスメディアとしては自分たちのスペクタクル的な大本営発表を守りたい。人々が「生活主義」的にメディア操作を黙認してくれる状態に戻したい。そのためには「無かった」ことにして人々が忘れてくれて、一部の人だけが執着して不正の噂話にうつつを抜かしているような通常の陰謀論に還元してしまうのが王道ですが、そうなるかどうかについてはかなり懐疑的にならざるを得ません。

というのもメディアの自己擁護がかなり無理があるものになっている点と、何か具体的な対象のある陰謀論と異なりそれ自体が知的好奇心や現実の生活を超えた言説そのものの荒唐無稽さとして現れているために、人々の考え方が実際に統合され少なくとも妥協点が生まれるまでは分断が残り続けるからです。反トランプ派にトランプ大統領のツイートにもある種の真実が含まれているよと言っても「飛んでもない!」と言うでしょうし、トランプ派がマスコミの編んだ物語を飲み込むのもかなり厳しいと思われます。

そして最後にもっとも本質的な問い、スペクタクル的な権力は本当に危険なのか。それについては分かりません。人々の選択の積み重ねです。僕が危惧するのはただひとつ、すでにスペクタクル的なものへの不信感は行き渡っていますから、ここから権力を回復するためにスペクタクル側の取ってくる方策がより強圧的になっていくことです。バイデン政権はハリウッドやオールドメディアがこぞって応援していることからも分かるように本質的にスペクタクル的な権力です。そのためSNSでの検閲を強めてくるでしょう。フェイクニュースを排除すると言えば聞こえはいいですが、それは裏を返せばどこかで誰かが何が現実かを決めているということです。

そうした意味もあり、僕はフェイクニュースも陰謀論も何でもありで人々の判断に任せても良いと思いますし、今回の騒動を見てもそれはそこまで危険ではないと考えていますが、そこは流れに任せましょう。

メディアが信頼を取り戻すのは実は簡単で、世論誘導をしなければ良いのです。お笑い芸人はエンタメ番組を作り俳優がドラマを演じ、社会的政治的イシューはメディアの意図に沿った発言をする者でなく専門家同士で落ち着いて討論する番組を作れば良いだけです。それだけで過去のメディアの暴走は「無かった」ことにできるのですけどね。もちろんそう簡単には行きません。でも結構こうして馬鹿みたいに、「そうすれば良いのに」と思えるようなことって正しかったりしますから。


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