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息をするように本を読む37 〜エミリー・ロッダ「ローワンと魔法の地図」〜



 以前にも書いたが、娘たちが小さい頃、児童書の頒布会に入っていた。
 毎月送られてくる本を娘たちは楽しみにしており、それは私も同様だった。

 その中に「ローワンと魔法の地図」という物語があった。
 オーストラリアの作家エミリー・ロッダさんのファンタジー児童文学作品だ。

 

 リンの谷と呼ばれる場所に小さな村がある。
 幼い頃に父を亡くし、この村で母と妹と暮らすローワンはひ弱で臆病な少年だった。
 いつも1人で静かに本を読んだり、家畜のバクシャー(リンの谷に生息する架空の動物。おそらく牛や山羊に似た、大人しい動物)の世話をして過ごし、人前で自分の考えを主張したり先に立って行動したりすることが苦手なローワンを、他の村人たちは、ある者は心配し、またある者は馬鹿にしていた。

 ある日、村に流れてくる川の水量が少なくなり、やがて止まってしまった。
 村に井戸はあるが、バクシャーたちは川の水しか飲めない。このままではバクシャーたちは死んでしまう。
 村人たちは、水の止まった原因を確かめに川の水源がある山へ登ることを決めた。
 その山は頂に竜が住むと言われ、長いあいだ誰も登ったことがない『禁じられた』魔の山だ。

 村人たちは村の呪術師シバに相談した。
 シバは呪文のような謎の言葉とともに、山の地図をローワンに託す。
 その地図はなぜかローワンが持たないと消えてしまうので、山行きのメンバーにローワンが加わらなければならなくなった。
 
 ローワンは恐怖に震え怯えながらも、大事な友達でもあるバクシャーのため、村の仲間たち6人と一緒に山へ向かうことを決心する。
 山への道は困難を極め、一行に次々と試練が降り掛かる。

 あくまで児童書なので平易な文章で書かれているが、その内容はとても深く、登場人物の思いもきちんと描かれている。

 リンの谷の人達は、今は畑を耕したり果樹を育てたりして暮らしているが、皆、勇敢な戦士の血を引いている。その祖先は何百年も前、海の彼方の遥か遠くの国から、恐ろしい敵との戦いから逃れてこの谷にやってきた。
 数年前には、攻めてきた敵から谷を守るたに戦ったこともある。
 村人たちは、常に戦士としての誇りを持っており、村の子どもたちも小さいうちから、走ること、跳ぶこと、泳ぐこと、戦うことを学ぶ。
 強くたくましく大胆で勇敢なことが尊ばれる村のなかで、ただ優しく引っ込み思案で身体も小さいローワンは、大人からも子どもたちからもいつも侮られていた。
 
 山に行ってからも、ひ弱くて小心なローワンは、他の6人の仲間たちから足手まとい扱いされる。

 しかし、次々と襲ってくる試練を潜っていくうちに、シバが言った謎の言葉の意味がだんだんと明らかになる。

 勇気とは何か。勇敢であるとはどういうことか。

 6人の仲間の中で最も強く勇敢な1人がローワンに言う言葉がある。
「怖がりながら、危険に立ち向かう。そして怖がりながら、先へと進む。それが本当の勇気だ、ローワン。怖がらないのは、愚か者だけさ」
 先に恐怖があることを知っていて、怖いと思いながらも、誰か何かのために、先へと進む者。
 それが勇者。


 1巻目を読み終わったあと、このリンの谷のローワンシリーズには続編があり、全部で5巻あることがわかった。
 私の記事をいつも読んでいただいている方々にはお察しのことと思うが、私はすぐに本屋へ走り、あと4巻を購入、娘たちと競って読んだ。

 第1巻の冒険のあと、ローワンが勇敢な少年になったかというと、決してそんなわけではない。
 ローワンは以前と同じようにバクシャーの世話をしながら静かに大人しく暮らしている。
 しかし、こういう物語の王道通り、ローワンとリンの谷には次々と危機と試練が降りかかる。
 それをローワンは、ときには尻込みし、ときには半泣きになりながら、それでも乗り越えていくのだ。
 その中で、リンの谷の成り立ちやローワンたちの祖先の秘密などさまざまな謎も解き明かされていく。
 毎篇出てくる、呪文のような言葉の謎解きにもワクワクさせられる。
 
 エミリー・ロッダさんは、ゲームやアニメにもなった「デルトラ・クエスト」の作者でもある。子どもの心を捉える冒険世界を描くことは得意中の得意なのだろう。
 

 この物語は、面白い冒険ファンタジーというだけではなく、ほんとうに勇敢であるとはどういうことか、人が性差、出自に関係なく、それぞれの違いを認めたうえで個人の役目を果たすとはどういうことか、それから、環境問題や功利優先主義など、現代世界において問題になっているさまざまな事柄に対しても、いろんなことを示唆してくれているように思えてならない。
 子どもたちにはもちろんだが、大人たちにもぜひ読んでいただきたい物語だと私は思う。
 
 もうひとつ、児童書の楽しみは挿絵だ。
 ローワンシリーズの挿絵は佐竹美保さんが描かれている。
 佐竹さんは、上橋菜穂子さんの「精霊の守り人シリーズ」の中の「旅人シリーズ」や「魔法使いハウルと火の悪魔」などの挿絵や表紙絵も描かれていて、とても美しく躍動感のある絵はファンタジーにぴったりだ。
 
 
 本を読むことは私には特別のことではない。生活の一部であり、呼吸することと同じことだ。

 この物語を読むと、私は果たして、逆境の中でローワンやその仲間たちのように優しく勇敢になれるだろうかと、いつも思う。

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