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息をするように本を読む46 〜綾辻行人「十角館の殺人」(館シリーズ)〜
ミステリー小説、推理小説といわれるものが好きだ。
ミステリー小説と一括りに言っても、その種類は数多く存在する。
古くは「探偵小説」とも言い、日本では大正時代あたりから海外の翻訳物に始まり、小栗虫太郎や甲賀三郎などの先駆者も数多くおられたらしい。(残念ながら私は名前だけしか存じ上げないが)
その中で、よく知られているのはやはり江戸川乱歩だろう。
そのデビュー作「二銭銅貨」は、論理的暗号謎解きの古典ともいうべき作品だ。
その後、探偵小説はざっくり、論理的なトリックや謎解きをメインにした「本格物」と呼ばれるものと、幻想的で怪奇的な物語を重視する「変格物」に分かれた。
戦時中は検閲が厳しく、娯楽的要素の強い小説は発表する場がなかったが、終戦後は、江戸川乱歩を始め、横溝正史、高木彬光、鮎川哲也などの大物ミステリー作家が次々と作品を出して本格探偵小説は復活した。
外部との連絡を絶たれた絶海の孤島。山奥に建つ由緒ありげな洋館。嵐の夜、崖崩れで道が塞がれ孤立した村。
そこで起こる殺人事件。密室。容疑者不在。謎に満ちた動機。
複雑に絡み合った不可能犯罪を、名探偵が快刀乱麻を断つように素晴らしい推理を繰り出して解決する。
うーん。様式美だ。
しかし、そんな確立されたテンプレに読者がそろそろ飽きてきた60年代、奇抜なトリックや人間離れした名探偵が出てこない、いわゆる社会派、と言われるミステリー小説が評価されるようになった。
百戦錬磨のベテラン刑事が、小さな証拠や些細な違和感、そして刑事の長年の勘を頼りに地道に調査を進め、そこから浮かび上がる意外な犯人の意外な動機、戦中戦後の混乱期に様々な事情や秘密を抱えて生きてきた人間たちの欲望に満ちた、あるいはやむに止まれぬ犯罪や社会の闇を暴いていく、というもの。
松本清張の「砂の器」や「点と線」などが有名だろうか。
社会派ミステリーの台頭により、本格ミステリーと言われるジャンルは絵空事と言われ、隅っこに追いやられてしまった。
「本格派の冬の時代」と言われる。
しかし、1980年代の初頭、角川映画の横溝正史シリーズが大ヒットしたこと、社会派物もそろそろ出尽くした感が出てきたことで、また、謎解きやそれに相応しい舞台装置の中で起きるミステリーも見直され始めた。
そこに、正統派の本格ミステリー作家、島田荘司の「占星術殺人事件」が出版され、その後を追うように、次々と本格ミステリーを書く作家が現れた。
「新本格派」と呼ばれた彼らによって、絶滅危惧種だと思われていた名探偵たちが復活した。(新本格派、という呼称を最初につけたのは講談社らしい)
前置きがものすごく長くなってしまったが、綾辻行人氏はその「新本格派」の嚆矢ともいわれる作家の1人で「館シリーズ」はその代表作だ。
初めてこのシリーズの第1作目「十角館の殺人」を読んだとき、衝撃を受けた。
私は(もう何度も言っていると思うが)本を読むのが大好きだ。
それはなぜかと聞かれても、読書から何かを得るとか学ぶとかいうこととはあまり関係なく、とにかく好きだから、としか言いようがない。
好んで読むジャンルもそのときによってさまざまだが、ミステリーはだいたいいつも好きの上位にランクしていたと思う。
どちらかと言えば、頭を空っぽにして熱中出来る、いわゆる本格物が好きだったが、社会派と呼ばれる物もあまり区別せずに読んでいたし、2時間ドラマの題材になっていた西村京太郎氏のトラベルシリーズや、山村美沙さんの京都シリーズも読んでいた。
最近では、巷で流行りのコージーミステリーや、警察物ももちろん面白い。
偉そうに知識を披露できるような読書歴があるわけではないものの、まあまあ、ミステリー慣れしているかなと自分では思っていた。(何、この怖いもの知らずの傲慢さ)
本の広告や帯に、「衝撃のラスト」とか、「あなたは必ず騙される」とかの煽り文句があっても、ほー、どれどれ、あー、なるほど、面白い、とか。
(何、その、上から目線)
「十角館の殺人」を読む前もそんな感じだった。
しかし、あるページまで来たところで、正直、うわ、やられた、と思った。
思わず、ページを捲り返してもう一度読んだ。
驚くと同時にわくわくして、ものすごく嬉しかった。
この世界にはまだとんでもなく面白いミステリーがある。私はまだまだ、全然読めてない。そんなふうに思った。
(だから、何なの、その上から目線)
お誂え向きの舞台設定。絶対に実行不可能な完全犯罪。不可解な動機。あちこちに張り巡らされた伏線。緻密な推理で謎を解く名探偵。最後に残る何とも言えない余韻。
「本格物」は、やっぱり楽しい。
綾辻行人氏の「館シリーズ」は1987年出版の「十角館の殺人」を皮切りに、「水車館の殺人」「迷路館の殺人」「人形館の殺人」「時計館の殺人」、そのほかにもいくつか作品がある。
夢中になって読み漁ったが、実は全部読んでしまうのがもったいなくて、3作ほどは未読のまま。
楽しみにとってあるのだ。
本を読むことは私には特別のことではない。生活の一部であり、呼吸することと同じことだ。
今回の記事は本の内容はほとんど書いていない。
何を書いてもネタバレになってしまうようで、これから読まれる方がおられるだろうと思うと何も書けなかった。
未読の方は、ぜひ、何も知らない状態で読んで欲しい。
そのくらい面白かった。
びっくりするようなドンデン返しがある、と書いているじゃないか、それも立派なネタバレだ、と言われるかもしれない。
いや、大丈夫。
絶対に、あなたは騙される。
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