『クリスとみちる』 8話:衝動
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僕はもう長いこと、小学校に行っていない。
学校に行きたくないと思ったことはいままで一度もない。
でも朝起きられなくなったので、しょうがない。
毎日午後だけいくのはやっぱりダメみたいで。
ちょっと前にはすごいねーってお母さんと桜をみていたのに、いまはセミがうるさい。
あっという間に思えるけど、けっこう時間経ったんだなあと思う。
勉強は塾に行ってるからそんなに遅れてる感じはしない。多分。
自分で時間割通りに勉強するのは割と楽しい。
でも体育とかは無理。それが残念。
もっと焦るべきかな?
でも全然そう思えない。
こうなってから、お母さんにもお父さんにも怒られたことは一度もない。
お母さんと一緒に病院とかいろいろ行ったけど、自分ではよくわからない。
お医者さんが、心がどうのっていってるけどあまりピンとこない。
泣いたり、怒ったりするのはあまり好きじゃない。
というか向いていないような気がする。そういうの。
クラスにはすぐ怒ったり、乱暴な子もいて、
みんなそういうのをよくないって文句言う。
でも僕はほんのちょっと、うらやましいと思う。
どうやったらそんなふうにいられるのかなって思うから。
夕ご飯を食べて夜になると僕はいつの間にか寝ている。
気がついたら次の日になっている。もうお昼だ。
リビングにいくとお父さんは仕事に行っててお母さんは洗い物とか洗濯とかしていて「みちるおはよー」って言う。そしてごはんを出してくれる。
その繰り返し。
別にやりたいことも、やりたくないことも、 どっちもないんだ。
本当はね。
だから、クリスが「短いデモセッションをしたい人はいませんか」と言って、しばらく誰も動かなかった時、小さく手を挙げてしまったことに一番びっくりしていたのは僕だった。
輪にいた大人たちが、いろんな顔になるのを見た。
クリスとちえこさんもびっくりした目になっていた。
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