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『クリスとみちる』 15話:帰還

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「いま自分が感じていることについては、誰とも話さないように」


 という注意深い条件が付いて、いったん休憩になった。



 体の奥までしん、となった静けさから一転、


 みんながゆっくり動き出して、話したり、お菓子を食べたりしていた。


 横にいるクリスは、僕の肩や足をさすりながら

 ちえこさんと何か話していた。


「みちるくん、いまの気分はどうですか」


 ちえこさんがクリスの言葉を訳した。


「うん、大丈夫」


 そう答えるとクリスは「グッド」と笑った。



 お母さんが笑顔でこっちに来るのが見えた。


 ゆっくり伸びてきた手を、僕はぎゅっと握り返した。


「なんか飲む?」


「うん」


 そうして僕たちは手をつなぎ、

 部屋の隅にあるポットやお菓子のある場所に向かった。



 この後のことはあんまりよく覚えていない。



 再び輪になって座った僕たちは

「何かについて」話すのではなく、


 いま自分が感じていることを話す

 ということをした。(と、後でお母さんに聞いた)


 僕とクリスのセッションを見てこう感じたとか、

 自分のこんなことを思い出したとか。


 ゆっくり話す人もいれば、早口で話す人もいた。

 

 複雑そうな顔で話す人もいれば、笑顔で話す人もいた。


「みちるくんが・・・」

 

 というフレーズがでるたびにちょっと緊張したけど、

 別に気にならなかった。

 内容もよくおぼえていないくらいだ。


 クリスがとても真剣な顔で、

 みんなの話を聞いたり、時々言葉を返したりしていた。


 そうしてとうとう終わりに近づき、

 

 最後の最後、僕たちは手をつなぎ、小さな輪になった。


「みちるくん、何か言っておきたいことはありますか」


 クリスが言った。


 僕は何も思いつかなかったので


「ありません」と答えた。


 クリスは「わかりました」と笑った。


 

 それが僕たちの最後の会話だった。


〜続く


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