あかる

趣味で小説を書いている学生。音楽、ゲーム、手芸などにも広く浅く手を出しています。

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マガジン

  • その羽根は闇に堕つ

    邪神に関わったことで家族を消されてしまった少女アイラが生きるために戦うファンタジー小説。

最近の記事

【羽根堕ち】第16話 メナード

『それじゃ、俺は主にこの事を報告してくるよ』  トフはそう言うとひらりと手を振って姿を消した。倒れていた下草は何事もなかったかのように起き上がり、風にゆらゆら揺れている。 「……なんだったの、あの人」  ジェナがぎゅっと眉をしかめて呟いた。アイラは苦笑いを浮かべてトフが消えた空を見上げる。 「すっごく自由な人だったね……。緋色の居場所、教えてくれたけど」  どういった偶然か、それはアイラたちのひとまずの目的地と同じメナードだった。知らずに村に立ち入っていたらどうなっていたか、

    • 【羽根堕ち】第15話 方法

       金色の光を呼吸するように明滅させる世界樹。それを取り囲む虹の結界。目の前に広がる光景に、アイラは呆然と立ち尽くす。壊さなければ。それだけはわかっているのに、頭が働かない。 「どうしよう……」  呟いた声は頼りなく揺れていた。ザイロが考え考え唸る。 『邪神戦争にいた人なら知ってるかもしれないけど……オルフェ様はいなかったし……』 「……邪神戦争?」  聞き慣れない言葉にアイラはことりと首をかしげる。そんなアイラの様子を見て、ジェナが驚いたように目を見開いた。 「アイラ、知らな

      • 【羽根堕ち】第14話 世界樹

         それから移動を続けること数日。ジェナにも少しずつ笑顔が戻り、前のようにザイロとはしゃぐ姿が見られるようになってきた。仲良く戯れる二人の姿を眺め、アイラは小さく呟く。 「良かったな、ザイロがいてくれて」  それを耳聡く拾ったトロンがアイラを見上げて首をかしげる。楽しげなジェナを見つめたままアイラはふっと微笑んだ。 「だって……私じゃ、ジェナにまたあんな顔させられなかった」  するりと懐に入り込んで一番欲しい言葉をくれるザイロだからこそ、ジェナを安心させることができた。今こうし

        • 【羽根堕ち】第13話 心配

           念のため周囲を警戒しながらミョーを出る。人々は思い思いの仕事に勤しんでおり、アイラたちを気に留める様子はまったくない。どうやらサロニカは約束を守ってくれたようだ。 『良かった……。これでしばらく心配いらないね!』  ふるりと尻尾を振って、ザイロが嬉しそうに言う。それに頷いて答えながらも、アイラはちらりと後ろを窺った。いつも手の届きそうな距離にいたジェナが、今は一歩後ろを歩いている。唇が動いているところを見ると、シャンと話しているのだろうか。 (やっぱりショックだったかな……

        【羽根堕ち】第16話 メナード

        マガジン

        • その羽根は闇に堕つ
          16本

        記事

          【羽根堕ち】第12話 願い事

          「サロニカちゃん、だめ。考え直して」  イサドラが懇願しながらサロニカの腕を叩く。けれど、サロニカは小さく首を振った。腕にぎゅっと力をこめ、ぼそっと吐き出すように訴える。 「邪神の子に負けて、生きていられるとは思えない……。だけど、あなたまで死んだらアンジュー様が悲しむじゃない」  その声と言葉に、イサドラは小さく息を飲んだ。つかの間ためらうように目を伏せると、サロニカはぽつぽつと話し始める。 「私、ずっとイサドラさんに嫉妬してた。アンジュー様の寵児で、みんなに優しくて、愛さ

          【羽根堕ち】第12話 願い事

          【羽根堕ち】第11話 クリスタル

           トロンのいるあたりを中心に、びりびりと空気が震える。足元には氷の矢だったものが粉々に砕けて輝いている。天井からぱらりと砂粒が落ちた。何が起きたのかわからないまま、アイラは呆然とトロンを見つめる。 「なに、今の……?」  呟いた声が小さく溶ける。その声に、同じく呆然としていたサロニカが我に返ったように槍を握りしめた。 「やってくれるわね……。だけど、甘く見ないで。私はサロニカ、アンジュー様に選ばれた代行者よ!」  サロニカは叫ぶと大きく槍を振り、幅広な斬撃を放った。今までの攻

          【羽根堕ち】第11話 クリスタル

          【羽根堕ち】第10話 因縁

           丁寧に巻かれた灰色の髪。鋭くこちらを睨む青い目。手に握られた水色の槍。現れたもう一人の女性は、まっすぐザイロを狙うと詠唱を続けた。 「解き放て!」  次の瞬間、槍は勢いよく滑り出す。ザイロではなくジェナに向かって。 「! 危ないっ」  とっさに、アイラはジェナの腕をつかむと強く引き寄せた。小さな体を庇うように抱き締めた、その腕に槍がわずかに触れる。 「ぐっ……」  かすっただけとは思えない鋭い痛みにアイラは思わず顔をしかめる。巫女の女性が焦ったように叫んだ。 「サロニカちゃ

          【羽根堕ち】第10話 因縁

          【羽根堕ち】第9話 光の神

           吹き渡る風に緑の稲穂が揺れている。広々と水を湛えた田んぼの向こうには畑が広がり、野菜が豊かに実をつける。人々は忙しく働いているけれど、その表情は楽しげで仕草は軽やかに美しい。のどかなミョーの風景に、アイラは思わず立ち止まった。 (……いけない。こんなところで揺れてる場合じゃない)  そう思っても、目は田園に釘付けられたまま、足も動かない。わかっていたつもりだったのに、平和な日常を目の当たりにして罪悪感が背筋を這い上ってくる。立ちすくむアイラにザイロが心配そうにすり寄った。ふ

          【羽根堕ち】第9話 光の神

          【羽根堕ち】第8話 ジェナ

           風が吹き、アイラの髪をなびかせる。ざわめく葉擦れの音に草を踏みしめるジェナの足音が重なる。息を切らせ、瞳を輝かせたジェナはアイラを見上げると開口一番弾んだ声で叫んだ。 「見て見て!ザイロがね、かっこいい石見つけたんだ!」  突き出してきた両手には、十字の星のような形をした真っ黒な石が大事そうに握られている。光を含んで濡れたように輝く石はずしりと存在感を放っていた。 「ほんとだ、かっこいい……」  アイラの呟きに、ジェナは誇らしげにふんすと鼻を鳴らす。その隣でザイロが同じく瞳

          【羽根堕ち】第8話 ジェナ

          【羽根堕ち】第7話 ナイラ

           数秒の沈黙。アイラが不安を覚え始めた頃、オルフェは冴星のような目でじっとアイラを見ると小さく首を振った。 『悪意あるものではない……が、こればかりは私の一存で決める訳にはいかない』 「! え……」  オルフェでは決められない。ならば誰が決めるというのだろう。両手をきつく握り締めて続く言葉を待つアイラに、オルフェは宥めるようにゆっくりと告げた。 『ナイラを喚べ』  ナイラ。幼い頃に一度聞いたきりの邪神の名。アイラの本当の系図に連なっている、破壊と創造の神。主神になるはずだった

          【羽根堕ち】第7話 ナイラ

          【羽根堕ち】第6話 オルフェ

           しばらく歩くと、いつの間にか周囲は高木に囲まれた森になっていた。川の水は透明感を増し、勢いよく滑るように流れている。ひんやりと湿った空気にアイラとジェナの足音だけが溶けていく。やがて視界が開け、トロンが念送してきた通りの静謐な湖が姿を現した。 「うわぁ……!」  水面が青空を映し、雲の縁を陽光が彩ってきらきらと輝く。鮮やかなその風景に、ジェナが歓声をあげて足を止めた。けれど、景色を楽しむのもつかの間、ジェナはすぐさま辺りを見回すとアイラを見上げて無邪気にねだる。 「ねぇ、ミ

          【羽根堕ち】第6話 オルフェ

          【羽根堕ち】第5話 懸念

           しばらくして、ジェナが落ち着いてくるとアイラは再び地図を開いた。ひとまずミョーを目指す方針はいいとして、そのままジェナを伴ってユールに行くのは酷だろう。全員で顔を付き合わせて慣れない地図をなんとか読み解き、ミョーから進めそうな道を探す。 「西は砂漠か……。ちゃんとした準備がないと通れないね」 『北は?山脈をぐるっと回ればメナードに行ける』  ザイロが地図を指し、ぐるりと弧を描いた。ミョーの北東からユールを囲むようにメナードの南東に伸びる山脈、その東。遠回りにはなるが確実に光

          【羽根堕ち】第5話 懸念

          【羽根堕ち】第4話 少年

           柔らかな日差しが水面を照らす。ぐったりと目を閉じたままの少年を見守りながら、アイラは川にぽいっと石を投げた。石はぽしゃんと重い音をたてて着水し、水面に綺麗な王冠を描いて沈んでいく。波紋はまたたく間にちりめんのような揺れに崩され、押し流されて消えていく。さらさらと流れる川の音に、少年の穏やかな呼吸の音が重なった。  少年は、見たところ十歳と少し。アイラよりはやや年下だろう。明るい茶色の髪が汗に濡れた額に張り付き、右手には不思議な十面体の紋様が描かれている。すやすやと寝息を立て

          【羽根堕ち】第4話 少年

          【羽根堕ち】第3話 出立

           扉をくぐると、そこは見慣れたアイラの家の脱衣室だった。ぐるりと見回してもおかしなところは何もなく、突風が吹き荒れたとは到底思えない。台所から居間を通って寝室へと向かいながらアイラはぎゅっと唇を噛み締めた。 (夢ならいいのに。ここを開けたら母さんがいて、変な夢だね、なんて笑って……。そうならいいのに)  扉にかけた手が震える。心臓が痛いほど高鳴り、自然と呼吸が浅くなる。ザイロが心配そうに見上げてくるのがわかった。アイラは強張った頬を無理矢理動かして口角を上げ、ザイロとトロン

          【羽根堕ち】第3話 出立

          【羽根堕ち】第2話 因果

           真っ白な空間に、少女が小さくしゃくりあげる声がさざ波のように響く。しばらくそうして呼吸を整えると、少女――アイラは顔を上げて恥ずかしそうに涙をぬぐった。腕の中でザイロが見上げ、もういいの?と首を傾げる。 「うん、大丈夫。……ありがとう」  アイラは少し濡れた声で、それでもきっぱりそう答えるとザイロを解放した。悲しみは癒えないが、消えてしまったものは戻らない。この先もきっと家族を想って泣くけれど、それは今ではない。  なんとか気持ちを切り替えると、止まっていた頭がゆっくり動き

          【羽根堕ち】第2話 因果

          【羽根堕ち】第1話 浄化

           かすかな唸りとともに、室内を冷たい風が駆け抜ける。アイラはくるまっていた毛布をぎゅっと抱き締めて目を開けた。隣のベッドには母が作る大きなふくらみがあり、寝息にあわせて規則正しく上下している。女性用のこの寝室からは見えないが、隣の部屋には父が同じように寝ているはずだ。いつもと変わらない家族の様子にアイラは安心し、けれど一抹の不安が胸に残るのを感じて首を傾げた。毛布にくるまったままの体をゆっくり起こし、ぐるりと部屋を見回す。 (何か変。私、どうして目が覚めたんだっけ?)  体に

          【羽根堕ち】第1話 浄化