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クロロプラストが赤と青を反射し緑色に染まる。

肴は日光、いい加減です。
Sprout、私は毎日、人を待っております。誰とも、わからぬ人をぽつねんと。
ぼんやりと改札口を見ているのです。

上り下りの電車がホームに到着するごとに、たくさんの人が電車の戸口から吐き出され、一様に怒っているような顔をして、定期券を出したり、時間に駆け出したり、そうして思い思いの方向に散って行く。

私は、ただぼんやりです。誰かがひとり、笑って私に声を掛ける。ああ、こわい。うう、困る。どきどきする。考えただけでも、ジョウロで冷水をかけられたように、ぞっとする。

けれども私は、やっぱり誰かを待っているのです。いったい私は、毎日ここに、誰を待っているのでしょう。どんな人を? 

いいえ、私の待っているものは、人間でないかも知れない。私は、人間をきらいです。いいえ、こわいのです。人と顔を合せて、お変りありませんか、寒くなりました、などと言いたくもない挨拶を、いい加減に言っていると、なんだか、自分ほどの嘘つきが世界中にいないような苦しい気持になって、死にたくなります。

そうしてまた、相手の人も、むやみに私を警戒して、当らずさわらずのお世辞やら、もったいぶった嘘の感想などを述べて、私はそれを聞いて、相手の人のけちな用心深さが悲しく、いよいよ世の中がいやでいやでたまらなくなります。

世の中の人というものは、お互い、こわばった挨拶をして、用心して、そうしてお互いに疲れて、一生を送るものなのでしょうか。私は、人に逢うのが、いやなのです。

いやいや、そんなこわいことは考えないようにしましょう。私は楽しく気が晴れることのために待っているのです。

前をぞろぞろと人が通って行く。あれでも、これでもない足音を聞き聞き、一心に一心に待っている。

どうか、どうかいらっしゃいませ。
この小さな駅の名はわざとお教えしません。
あなたはいつか、いつか私を見かけるだろうと。

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