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Weekly Quest <シン・冷戦>

(2023年11月20日号)


毎週月曜日に Weekly Quest と称し旬な話題を深く掘り下げて投資のヒントにしていければと思います。


アメリカの敵


11月も中旬になりすっかり寒くなりました。あまりの暑さに10月に入っても冷房をつけた時がありましたが、あの暑さが嘘のようです。

今回は、アメリカ自体とアメリカを取り囲む環境がどう変わったのか、それがどのように経済に影響を及ぼしているのかを再度確認していきたいと思います。

2019年の年末からコロナにより世界中の人やモノの移動が止まってしまい、各国に甚大な経済的損失が発生したのはみなさんご存知の通りです。世界がゴーストタウン化してしまいましたが、幸い行動制限やワクチンなどの効果もあり、ようやく通常モードにもどりつつあります。

しかし、2022年2月24日にロシアがウクライナ侵攻を開始し、西側諸国は不意をつかれた格好になり、またしても混乱がおきています。軍事侵攻がもたらした影響は、ようやく正常化しかけた人の往来やモノの供給に再び悪い影響を与えています。

さらに、アメリカと中国の関係悪化、北朝鮮問題などが重なり、その上に新たな中東紛争など、決してアメリカの経済にとって良い話ではないことが続いています。

気が付けば現在のアメリカは四つの連帯する敵対勢力に同時に対峙していることになります(ロシア、中国、北朝鮮、イラン)。これは前代未聞で今までにはなかったことです。

このうち三つの敵対勢力に対峙しているのが日本ですが、平和ボケな政府が本当に脅威に感じているのかどうかも怪しいところです。

FOREIGN AFFAIRS REPORTの 2023 NO.11 によるとこの四カ国の核弾頭保有数は近い将来に現在のほぼ倍になる可能性があるとしています。また、中国のように敵対国が経済大国だということも今までにありませんでした。

さらに問題なのは、以前にもブログで書きましたが、力強い対応をしなければならないアメリカが国内で分断してしまっているということです。それは予算成立に関するゴタゴタを見れば一目瞭然です。

また、最近の株式相場などを見ていると有事の際の反応が極端になり、逆に見るとそれだけ投資家のリスク認識が低下していることから、「大したことは起きない」とたかを括っている節があることです。

これは政治家が分裂していて、自分達の既得権益が優先され、国民へのリスク説明が十分ではないことがあります。

歴史を紐解くと、アメリカが冷戦に勝利できたのは歴代の大統領を通じて与野党が一体化し、一貫した戦略を実施できたことによるところが大ですが、現在の状況を見ると見る影もありません。

大統領令を最高裁判所が却下するなどと言う事例も増えており分断化の深刻さを物語っています。

国内の状況がこのような有様ですから、一体化して外敵に臨むということができるはずもありません。

これらの国々が米国とすぐに戦争を始めることはありませんが、そのかわり新たな冷戦時代を迎えることになります。「シン・冷戦」です。

さらに、最近の様子を見ると紛争解決に向けてのアメリカの交渉力が極端になくなってしまったのも明白です。同盟国のイスラエルですらアメリカの意向を聞かなくなってしまいました。

こんな状態ですから敵対国が威厳のなくなったアメリカの意見を受け入れるはずがなく、問題が大きくなることは当然のことです。

また、経済的な影響として、感染症による物流分断や供給力低下がおきましたが、今回の新しい冷戦によりいままで依存していた原料の供給や労働力の確保にさらに支障をきたすことになりました。

バイデン大統領が企業のアメリカ国内回帰を目論んだところで全てをまかなえるわけではありません。それは安価な原料の供給や労働力の確保ができないことで、アメリカにとってはコストの増加を招く結果になっています。

アメリカ回帰の結果どうなったかと言えば、ストライキの頻発で大幅な賃金上昇が起きたと言うことなのです。企業はいままで安い賃金で利益を出していたのが、賃金上昇により利益を圧迫し、ひいては物価の上昇につながっています。そして、それが売上高の減少につながっているわけです。


アメリカの優位性


アメリカの国防費はロシア、中国を含むアメリカ以外の上位十カ国の国防予算を合計したよりも大きい予算になっています。そう言った意味で最強の軍事力と言われているわけですが、最近では政治の分断や政策の失敗が相次いでおり国防費については有効に活用されていないと言われています。さらに社会保障の増大にも対処できていません。

そのために大量の国債が発行されていくわけですが、国債を大量に発行することは経済の信頼を損なうことになります。これが国債の格下げにつながるわけです。

政府閉鎖は今まで何度か発生していますが、最近では政治的な分断が原因で、アメリカ軍への影響も懸念されています。まさに悪循環。こういった一連のゴタゴタのせいで笑い物になっていると言うことも、アメリカの政治家はきちんと理解しているのでしょうか。

ここまでアメリカの安全保障と世界の環境を見てきましたが、このままだと経済にとっては良い影響がないように思えます。

1989年12月のマルタ会談にて「冷戦の終結宣言」が出されました。これによりアメリカは世界中のどの場所でも安い労働力を得ることが可能になり、資源も制限なく調達することができるようになりました。

当然ですが、そのことがアメリカの技術力や発明を加速化させ、途中、様々な金融イベントを吸収しながらも世界一のアメリカを維持していくことができました。

そう言ったことを背景にして、その後、30年以上続いた低金利が大きく経済発展に寄与しています。しかし、コロナをきっかけに変わってしまったと言わざるを得ません。

アメリカの低コスト経済を支えてきた安全保障の枠組みが崩壊してしまったと言っても良いわけですが、このことが米国企業に与える影響はかなり大きいのではないかと思います。

(アメリカ10年国債金利推移・FREDより引用)


ところが、最近の市場参加者は目先の物価動向や金利水準しか見ていません。投資は仮説と検証が重要ですが、その仮説における前提が崩壊してしまっている(冷戦が再び継続する)わけです。

今後、ロシアや中国、北朝鮮、イランと話し合いに基づいて和解するとも考えにくいです。そう言ったことを考えると、1990年ごろから始まった低金利も2020年で終了してしまいましたが、現在の金利上昇を一時的なものと考えるには少し無理があります。

また、来年には利下げが実施されるのではという観測もありますが、多少はあったとしても以前のような低金利に戻ることはないのではないかと思いますし、それを背景に米国株も今までのようなパフォーマンスが期待できるのかは非常に疑問が残るところです。目先を見る前に、大局の流れを理解する必要があるのです。


最後までお読みいただきありがとうございました。

参考記事:

参考図書:

・FOREIGN AFFAIRS REPORT 2023 NO.11
 ー<アメリカパワーの失墜> 機能不全のアメリカ-中露を抑止できるのかー
ロバート・M・ゲーツ