見出し画像

Weekly Quest <以前とは違う米国>

(2023年8月7日号)


毎週月曜日にWeekly Questと称し旬な話題を深く掘り下げて投資のヒントにしていければと思います。


政治が崩壊


先週8月3日水曜日にアメリカの格付け会社フィッチが米国の格付けをAAAから1ノッチ引き下げAA+とすることを発表しました。これにより米国市場は大きく下落しています。

3ヶ月前に債務上限問題で大揉めし、ギリギリでデフォルトを回避したことは記憶に新しいところですが、フィッチはその時の政治的な駆け引きに危機感をいだき、「これでは債務削減はできないのではないか」と懸念して米国債についての格下げ警告を発していました。

今回これだけの影響が出たということは、市場はこの警告を完全に無視していたことになります。格下げ後には「フィッチの規模は大きくないから格下げの影響は限定的」など意味不明なコメントが出る始末で、自分たちに都合の悪いことを無視しているのを見ると、市場の楽観主義にも程があるということです。

また、バイデン大統領やマッカーシー議長からは「相手のせいだ」というコメントが出ていてあきれてしまいましたが、今後同じようなことが繰り返されるのは目に見えています。

直接の原因は債務が多いことですから、これが改善されていないというのはフィッチの主張も的を得たもので格下げは当然の結果とも言えます。要は借金が減る気配がないことに端を発しているのです。

さらに、イエレン財務長官などがこの格下げに対して猛烈な抗議をしていましたが、そんなに猛抗議するのは何かよほど都合が悪いことがあるのではないかとさえ勘繰ってしまいます。


しかし、格下げの決定は覆ることはありません。非難をうけてコロコロと格付けを変えると今度は格付けの信憑性にも関わることです。

もっとも、格付けに関しては過去にリーマン・ブラザーズに対し格付け各社はAAAを付与していたということもあり、信用に値しないということもありますが、この格付けによって色々な金融市場が動いているわけですからしょうがない話です。

格下げは今回はじめてではなく、アメリカでは2011年8月にS&Pがアメリカの財政赤字削減への対応が不十分であるとの認識を示し、今回と同じように米国の格付けをAAAからAA+に引き下げをおこないましたが、当時は初めての格下げということで市場は大きく下落しました。

その後当時のオバマ大統領など政治家は、今と同じように双方が悪いと主張、財務長官もS&Pに対して猛抗議をしました。財務長官が怒るのは台本通りということです。この時も最後の最後まで与野党の交渉が続いたあげくようやく妥結したということで、今回のデフォルト騒ぎと同じようなことが起きていました。



以前から当ブログでもアメリカの分断が経済にも悪影響を及ぼし、右肩上がり成長ではなくなったと書いていますが、国民の利益を優先と言いながら実際は自分達の権益を優先した政治が行われていて、結果的に世界中に悪影響を及ぼしているのは事実です。

アメリカの民主主義は世界の民主主義の象徴でしたが、もはや拒否権民主主義(当ブログ ”アメリカの未来” を参照)に転落したということです。

そもそも、”借金を減らす” ということが問題点になっていますので、これに対して両党のスタンスの違いをどれだけ埋めていくかということが重要になりますが、基本的に民主党は ”増税”、共和党は ”減税” というスタンスですからそこに既得権益が入るとまとまるはずがありません。

今のアメリカでは自助努力でこう言ったことを解決することは不可能になってしまったのではないでしょうか。外部からのショックがない限り今後も ”おかしなアメリカ” のままなのではないかと思います。


今後の影響

今後の格下げの影響を考えたいと思います。格付け会社は3社(ムーディーズ、S&P、そしてフィッチ)ありますが、そのうちの2社がAA+相当に引き下げたことになります。

こう言った状況はアメリカにとっても初めてのことなので影響は未知数ですが、通常債券の格付けが引き下げになると信用力が減りますので、金利は必然的に上昇することになります。

今まで絶大な信用力を誇っていた米国債でもAA+なりの信用力になるということです。今後は今までより少し高い金利で新発国債も発行されることになります。

市場金利で10年債の動きをみるとここ最近で金利が一番高かった時は4.33%となりますので、1ノッチ引き下げで4.5%ぐらいまで上昇するかもしれません。

毎年4.5%で運用できるなら、NYダウの配当利回りが2%ということを考えると、もはや株でなくてもいいということになり株を売って国債を買うという動きが出れば株式相場にとってはネガティブな話になります。

また、分散投資上の問題が起きるかもしれません。機関投資家のポートフォリオは格付けなども考慮して債券を組入れているわけですから、格付けが下がったことで保有割合が多くなり、調整の売りが出ることになります。

これは金利の上昇懸念につながります。さらに考えられるのは政府保証を受けていた企業の格付けとそこに融資している銀行の評価です。政府保証とは企業に政府がお墨付きをつけることによって借入をしやすくなるというものですが、これを受けている会社は多岐にわたります。

例えば住宅金融公社やインフラ関連企業、他の国に対する貸付などです。政府保証を付与している国の格付けが下がるわけですから、付与されている会社の格付けもすべて下がることになります。

ウクライナにつけているアメリカの政府保証については、どのように対応するのかわかりませんが、格付けが下がるということはそういうところまで影響が出ることになります。


さらに、貸し出している側の銀行では引当金額を増やす要因にもなりますので銀行の評価にも影響が出ることが考えられます。また、金融政策についても不透明です。FEDとしては市場金利や経済指標を注意深く見守るしかないですが、市場金利の上昇がインフレ沈静化の邪魔になるなら利上げを継続するしかありません。

以上、格下げと今後の影響について簡単に考えてみましたが、前代未聞のことということもあり影響については未知数ということになります。しかし、良い話ではありませんので楽観論は禁物ということになります。

ここまでみると今のアメリカ市場にはあまり良い話がないということになります。何度も書きますが、いままでアメリカの成長を支えてきた屋台骨が崩壊してきており、以前のようなアメリカではないということです。悲観的な話でもこれが事実でなのです。


最後までお読みいただきありがとうございました。

参考記事: