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Weekly Quest <アメリカの未来>

(2023年7月17日号)


毎週月曜日にWeekly Questと称し旬な話題を深く掘り下げて投資のヒントにしていければと思います。


輝かしい未来なのか


七月も半ばで暑さがいちだんとキツくなってきました。今回はアメリカの未来について思うところを書いてみたいと思います。

去年の今頃は米国市場についてもまだまだ強気な投資家が多く「インデックスを持っていれば下がっても安心、必ず上がる」と言ったコメントがSNSで多く見られました。

金利引き上げを侮るなかれと当ブログでもTwitterでも警告しましたが、悲観的な意見はなかなか受け入れられませんね笑。これは、投資家の「認知バイアス」が原因です。

下がるとは絶対に言わないアナリストの強気なコメントを見て、投資を始めて間もない投資家が強気になるもの無理はありませんし、買えば上がるというバブル的な相場を経験し株価が下がるということを知らない中で、「そんなはずはない、必ず上がる」と思い込むのも仕方ないことです。

以前にも当ブログで書いた通り、長期間の右肩上がりは、背景に強いアメリカという前提がありました。いまやそれが崩れてきたのではないかというわけです。そこで、アメリカの今後の未来について前回とは違う観点から考えてみようと思いま
す。


人口構成から見たアメリカの将来


日本は世界一の高齢化社会になってしまいましたが、世界を揺るがすような技術革新が1990年ぐらいから出てこなくなったと言われていて、その頃の日本の平均年齢が40歳だったと言われています。

さまざまな環境から年齢が40歳をすぎると柔軟な発想ができにくくなると言われています。現在40歳以上の方は「まだまだ、そんなことはない」とおっしゃるかもしれませんが脳科学から見ると厳しくなってくる頃だとも言われています(私もとっくに40歳をすぎています笑)。

一方で2021年時点でのアメリカの平均年齢は38歳ぐらいと言われていますが、人口の年齢別分布を見ると25歳〜54歳が一番多く全体の約40%を占めています。この25歳が40歳になるまであと15年ですので、2040年までに平均年齢が40歳を超えてくるのではないかと思います。

しかし、いままで移民の流入制限が緩かったという前提がありました。柔軟な発想や突拍子もないアイデアが年齢的に浮かばなくなってくると、いよいよ世界を揺るがす世紀の技術開発もアメリカ発ではなくなってくるかもしれません。

例としてMETAが挙げられます。ご存じの方も多いとは思いますが、もともとFacebookは ”大学の女子生徒の図鑑を作る” という実にくだらない発想からできたものですが、その時ザッカーバーグは22歳でした。

さらに、高齢化も進むことになりますが、2030年にはアメリカの人口全体の20%を超えてくるといわれています。現在でも政治家のトップクラスは70歳以上が大部分を占め、発想の膠着化が見られるのは高齢化の弊害と言っていいかと思います。

これが今後企業活動にも大きな影響を与えることになります。以下の図はアメリカの年齢別人口分部図です。


(PopulationPyramid.netより引用)


こういった人口問題は高齢化も含めて人口が順調に増加していれば問題になることはありませんが、アメリカの人口は増加しているのでしょうか?


(FRED ECONOMIC DATAより引用)


これで見るとアメリカの人口は右肩上がりで増加していますが、このうち移民の割合が2020年現在で約15%を占めています。5000万人といえば日本の人口のほぼ半分に相当する人数です。しかし、ここ最近は流入制限をかけていますので今後は移民流入による人口増加は望めないのではないかと思います。それではアメリカの出生率を見てみましょう。


(FRED ECONOMIC DATAより引用 )


このように人口グラフと全く逆の動きになっています。経済が成熟するにつれて出生率が下がるのは世の常ですが、労働生産人口も減少しますので移民の流入が制限されると経済を維持できなくなります。

それは現在のアメリカの労働力不足や賃金インフレを考えると一目瞭然です。移民流入制限については今後のアメリカに深刻な状況を作り出すかもしれません。いままで、新規雇用の25%は移民が生み出していたり、フォーチュン500社の40%は移民やその子が設立した企業です。

また、ここ最近のスタートアップ企業の半分は移民が設立しています。また、最近のアメリカ政府は強引な移民流入制限もさることながら白人以外に対する差別も悪化しているように感じます。アメリカでの白人のプレゼンスが著しく低下してきたということかもしれません。

技術力を背景にした経営についてはまだ絶大なプレゼンスを保ってはいますが、教育格差や高齢化、また後継者問題によりいつまで維持できるのか不安を残すところです。

今回は詳細に書きませんが、教育格差もひどい状況になりつつあります。これはやがて経済活動と政治活動の質を下げることになります。経済が低成長になるのは、十分な教育を受けないとお金を使える人が少なくなるからです。

差別や格差がひいては国民同士の信頼を失うことになり、政治に対する信頼も低下することになります。


「NO」としか言わないアメリカ

むかし、石原慎太郎氏の著書で『「NO」と言える日本』というのがありましたが、「日本はアメリカの恫喝に屈するな」という内容でアメリカでは反米の書と言われました。

最近のアメリカの状況を見て、インターネットブラウザーの楚でもあるネットスケープ社の創設者であるマーク・アンドリューセン曰く「今のアメリカは拒否権民主主義におちいっている」と書いています。

これは、さしずめ『「NO」としか言わないアメリカ』で、まさにこれが現在のアメリカの問題点で、今後衰退の原因となりうるものだと思います。拒否権民主主義とは主に政治での意思決定のいい加減さや拒否から始まることを言った言葉ですが、今回の予算審議の遅延とデフォルト騒ぎを見れば一目瞭然ですね。なんでも「NO」というのが正義だと考え始めているのです。

これと同じように「NIMBY主義」と言われ始めていますが、”Not In My BackYard”の頭文字をとったもので、「我が家の裏じゃないところにしてくれ」という意味で、自宅の近所で公共施設などが建設されることに反対する動きなどが多々見られるようになってきたということです。

これが、アメリカ全国各地での建設計画を妨害していると言われていて住宅供給まで遅れてしまう事態になっており、供給不足から住宅価格が急騰しているというありさまです。アメリカの老朽化したインフラ設備の更新が進まないのもこう言ったことが背景にあるわけです。

こうしてみてくるとアメリカの経済発展にとって重要な部分に異変が見られるのは良い話ではありません。拒否権民主主義や、NIMBY主義がひどくなると国の分断の原因になりかねません。

以前から何度も指摘していますが、今までアメリカの発展を支えてきた屋台骨がいろいろと崩れてきているわけですから、これが是正されないと今までのような右肩上がりの成長は望めないということになります。

しかし、投資においてはアメリカを外すわけにはいきませんので、注意深く柔軟な発想で投資していくことが重要だと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

過去記事:


参考図書:

・「パンデミック後の世界 10の教訓」/ ファリード・ザッカリア著 
  日本経済新聞出版社社
・「アメリカ後の世界」/ ファリード・ザッカリア著 徳間書店
・「2030年 世界はこう変わる」/ 米国国家情報会議編 講談社