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Weekly Quest <日本のインフレ>

(2023年8月14日号)


毎週月曜日にWeekly Questと称し旬な話題を深く掘り下げて投資のヒントにしていければと思います。


デフレーションに入り浸り


お盆休みで静かに故人を偲びたいものですが、相変わらず異常な暑さが続いています。

異常といえば、バブル崩壊以降、日本では異常なデフレーション状態(デフレ)が続いていましたが、コロナによるサプライチェーンの崩壊やロシアのウクライナ侵攻をきっかけとして、あれだけ上昇しなかった物価があっというまに3%を超える上昇になってしまいました。そして現在では日銀も悪いインフレの予防的観点からいままでの政策の見直しを図っています。今週は日本でのインフレについて書いてみたいと思います。

日本の物価上昇率はこの三十年間に何度か2%以上になることもありましたが、結局はマイナスになるということを繰り返してきました。デフレの最たるものが、リーマンショック時で -2% ぐらいにまで下落しました。

一度安い値段を経験してしまうと景気が良くなっても ”安いことにこしたことはない” と言うバイアスから、なかなか財布の紐を緩ませないのが日本人の気質というところです。この三十年間で給料も上昇しなかったということも大いに関係があるところですが、日本の物価上昇率を簡単に見てみます。


(日経新聞電子版より引用)


これで見ると日本の物価推移には二つの要因が作用しています。一つは”増税”(おもに消費税)による物価上昇、もう一つは”投機”によってもたらされた原油価格の上昇によるものです。

上の図の例でいくと、1997年はタイを発端としたアジア通貨危機が起こりそれによる原油の需要低下懸念から原油価格は一旦下落しましたが、その後産油国の減産がきっかけとなり原油価格は急上昇しました。

また、2007年あたりにも原油価格が急上昇しましたが、これは新興国の成長拡大に伴う原油の消費量拡大という名の下の投機による上昇でした。そして今回のロシアのウクライナ侵攻による供給懸念による上昇ということになります。

これを見る限り、日本の物価は増税と原油価格により動いているわけです。水準的には他の国と比較するとそんなに大きく上昇しているわけではありませんが、賃金も上がらない中、デフレに入り浸ってきた経済でしたので今になってその差が大きく感じられるのは無理もありません。

それにしても、世界一の経済力だと言われた日本も結局は資源を輸入に頼るという脆弱な基盤を元にした経済力だということで現在もそこは変わることはありません。コロナ禍の供給変調やロシア侵攻の影響を考えると一目瞭然です。そこで原油価格の推移を見てみましょう。


(WTIの価格推移)


原油価格を見ると、最近再び上昇傾向とはいえ高値からは大きく下落していますが、ウクライナ軍優勢でまもなく戦争が終わると言われたロシア侵攻が相変わらずダラダラと続いており、今後、中国に不穏な動きが出ればさらに物価が上昇するかもしれないということを覚えておいたほうがよさそうです。

さらに、外部要因だけでなく日本のインフレを考える上で頭の痛い問題が労働力不足です。労働力不足はアメリカだけの問題と思いきや、日本のほうが深刻になってきています。

以前にも当ブログで日本の未来について書きましたが、人口減少からの労働力不足も顕著になり始めています。労働力を募集するにも賃金が低いと確保できませんが、三十年間も賃金をほったらかしにしてきたツケがいよいよまわってきたということになります。賃上げによる労働力確保で価格転嫁が起きると今度は悪いインフレになってしまいます。


(日経新聞より引用)


日本の労働力不足は2040年には1100万人不足するのではないかと言われています。1100万人といえば東京都の人口の8割に相当する数字ですが、どうやって確保するのでしょうか?。

現在の日本での移民労働者の数は182万人ぐらいと言われていますが、これでは焼石に水で全く足りないということになります。日本の文化や魅力的なコンテンツを目指して移民が流入するという考え方もありますが、遊びに来るのと、労働をすることとは違いますね。

さらに移民労働者にも社会保障費を納めてもらわないと困りますが、納めることを強制すれば、それでも日本で働きたいという移民がどれだけいるのかということになります。

また、業種を見ると主にサービス業の不足が顕著で、最近では金融機関でも労働力不足が目立ってきています。辞めた人を再雇用するなどの動きも目立っており事態は切迫しているようにも見えます。

労働力を維持するには賃上げ、労働力を確保するにも高賃金が求められるということになり、いずれにせよ今後のインフレ要因ということになります。

賃金をこれ以上出せませんという水準までくると、次は生産性の低下、最後に景気が失速するという流れになります。地政学的リスクの緩和により一旦は物価が沈静化しても内的要因でも日本経済は悪化していくということになります。


インフレの落とし穴

最近では見かけなくなりましたが、現金を持っていればインフレで目減りするから資産運用が必要だとする説明がありますが、さらに資産運用の説明として多くは70の法則というものがベースになっています。

これは70を金利で割ると資産が拡大するまでの期間が計算されるというものです。例えば年間2%で運用すると35年で元本が倍になりますという説明です。株式で毎年2%で運用できればすごいと思いますが、当然ですがこの話には値下がりリスクは考慮されていません。そして、インフレ回避と言いながら、インフレ自体を考慮していないというものです。

それは、インフレも同様に2%で毎年増加すれば35年でインフレも倍になるということで、これでは資産運用しているメリットは全くなくなるということです。これはアメリカ株にも同じく通用する話ですが、世の中そんな上手い話はありません。

インデックスを長期間保有すれば莫大なパフォーマンスが上がるという解説も多いですが、これもインフレを全く考慮していないということになります。投資というのは地道にデータを分析しながら、その時の相場と対峙していくしか近道はないのです。


(FREDより引用:日本の物価推移)


以上のように見てくるなら、インフレについて深刻に考えないといけないのはアメリカよりも日本だということです。日本の盛衰40年周期などと合わせて考えると、労働人口減少問題による賃金インフレ上昇やロシア、中国などの大国と西側諸国の対立などで内的要因に外的要因がさらに加わると、2030年から40年にかけて相当深刻にな事態を迎えるということになり、日本株は長期の運用対象としてはいかがなものかということになります。


最後までお読みいただきありがとうございました。

参考記事: